・たまに、無性にマズいラーメンを食べたくなるのは男の文化だと悪田権三は認識している。「何故、金を出してまでマズいモノを食べに行くのか」と問われれば、真剣に考え、真面目に答えを探す。そこに行きつく答えは「ストレス発散のため」だろうか。
・悪田の持論は「どんなに激マズ家系(ラーメン)も味濃いめで注文すれば何とか食える」である。是非、一度、お試しいただきたい。
・「食欲を満たす」「満腹感を味わう」「一気に食う」「ドカ食いする」「味の濃いものを注文する」「出来ればスープまで完食する」は、全て健康に悪いのと確信している。では何故、男は自身の健康を害してまでマズいものを求めるのか。それは、「征服感」だと考える。
・この言葉を辞書で引くと「①武力で敵を負かし、支配下に置くこと」「②困難を克服して目的を達成すること」だそうだ。いずれも、面白いくらいぴったり当てはまる。
まず、①の敵に当てはめると、マズいラーメンそのものが敵(仮想)である。「こんなクソマズいラーメンをこの世に送り込みやがって」という怒りの概念が自身を奮い立たせ、箸という武力を用いて敵との戦いに向かっていく。「自己の支配下」とは胃袋である。
・続いて②の困難とは、クソマズいラーメンを食べる際の試練でもある。試練を乗り越えながら「完食(家系のある店舗では「完まく」と表現しているが、意味は分からない)」※ネットで検索すると「ラーメンの汁まで完飲すること」だそうだ。確かに、ある激マズ店では、それをすることで、ポイントを付してくれるところもある。実に高度な試練だ。
・試練と征服という表裏一体の関係性は目的と意識に動機づけられる。「体に悪いことをやりたい」ということは、同時に「快楽を得たい」という意識との因果関係にあるので、マズいものを腹いっぱい食べたという結果は、後悔という罪悪感とともに、ある種の多幸感を伴う。サウナを出た後の水風呂(ととのう)や、温泉を出た後の扇風機(ふる〇ん)、街中を全裸で疾走する(ストーリーキング)は、態様によっては犯罪行為となるが、すべて衣服を身に着けないという、同様な目的と意識を「マッパ」という行為で体現した共通項と位置付けられる。
・体に悪いことをやって、ストレスを発散するということをするのは愚か者のやることだ。酒、タバコ、セックス、麻薬、ギャンブル、オナニー、自損行為など、これらはすべて体に悪い、あるいは精神衛生上好ましくないから、やるべきでないという賢者の考えに立てば、マズラーはまさに「毒」を体に取り込んでいるようなもの。
・実際に昼飯時に行くと、驚くほど大量の、商品名「〇イミー」という化学調味料が客席の真横に山積みされている。ラーメン好きの間では、化学調味料は「魚介系ダシ」と呼ばれるイノシン酸を石油などを原料に化学の力で作ったものだ。そんなものが体に良い筈がない。
・しかし、大学を出た優秀な化学者が、昆布などに由来する味のグルタミン酸と、かつお節などに由来するイノシン酸との調和が旨味の元となることを突き止め、これを化学の力で生成し量産化に成功した功績は偉大である。ちなみに、酢と卵を調和させて「マヨネーズ」を開発した学者(料理人)様にも悪田は賛意を贈りたい。
・昔、悪田が警部補時代、直属の上司であった、北海道出身のある警部がいた。悪田が警察本部の捜査員だった当時、「帳場(ちょうば)」と呼ばれる、警察署の会議室や講堂の一角を捜査の拠点として借りて、そこで捜査を行うのであるが、仕事が詰まって来ると、夕飯時にオレンジ色の看板の牛丼が食べたくなって来る。
・若手の捜査員が注文を取りまとめ買い出しに行くのだが、気を利かせて、注文を聞いてやったのに、その警部は「俺はそんなもんは食わねぇ。何を食っているか分からねぇような牛の肉なんか食えるか」と吐き捨てる。「そんなアホは放っておけ」と言わんばかりに、それぞれの好みで注文して腹を満たすのだが、警部はそこには加わらない。それでいて、その警部は無類の大酒のみでヘビースモーカー。「あんたの方が立派に健康を害しておるわ」と皆、呆れていた。
・悪田には、マズラーに向き合う際の作法がある。まず食事全般に関してだが、食べ始める時、食べ終わる時には、必ず「いただきます」「ごちそうさまでした」を声に出して手を合わせる。命をいただいていることに対する敬意だ。当然にマズラーをいただく時も必ず手を合わせるから、店主のオヤジも悪田が来ると、いちいち味の好みは聞かない。何も言わなくとも、必ず味濃いめが出て来る。
・驚いたことに、県警にいた当時は、帰りがけの昼の時間帯に、たまに立ち寄っていた程度だったが、警察を辞めて一年以上、間があいて、その後に、ひょっこりと顔を出した。当然、覚えている筈はないと思った。しかも、昼の客が夜の客になったにもかかわらず、オヤジは覚えていた。「おっ、悪田さん、県警を退職して不動産がダメになったんですってねぇ」などと余計なことは、一切、言わない。そもそも、客と余計な会話を交わさない。
・悪田には、県警にいた当時から、味の好みを聞いてこない。言い方を変えれば「野暮なことは聞かない」。しかもあの当時と違ってマスクをしているから、よほど親しい間柄でない限り分かりようがない。なのに、ラーメンをカウンター越しに置く時だけ「はい、味濃いめ、お待ちどうさま」と言う。どうやら、オヤジの頭の中には、この客は、「あじこいめ」というカテゴリーでインプットされているようだ。
・もうひとつの作法は「れんげ」と呼ばれる邪道な道具を使わないことだ。アレでスープをすくうと、細かい汁がびちゃびちゃと撥ねてネクタイや上着を汚す。マズいラーメンの汁は「どんぶりから、直接、口に」が悪田が大切にしている作法のひとつだ。実はまだまだ別な作法もあるが、それは次回に譲る。
・マズいラーメン店は、歓楽街の一角にある。これまでの歴史の中で、いろいろな人種の悲哀を見てきただけあって、しかもこのコロナ禍で、いろいろな制限や制約がある中で、皆、たいへんな時代を過ごしているのを、日々、肌で感じているからこそ、ラーメンを作るオヤジの背中には、無言の中に、ある種の「やさしさ」や「あたたかみ」が感じられる。
・しかし、いつもながら、悲しいくらいマズいラーメンだ。どうやって作ったら、こんなにマズく作れるのか。骨をずん胴ナベで煮て、おびただしい化学調味料と醤油を容赦なく使っていることは解明されているが、マズさの秘訣は、まだまだ秘密のベールに包まれている。
・悪田は、最近、仕事が詰まっていたから、よりによって二晩連続で行ってしまった。しかし、毎晩食べても飽きないマズさだ。
・などと、会社に泊まり込んで仕事をする傍ら、こんなことをしていたら、朝5時を迎えた。これから深夜・早朝のコンビニ店長の元気な顔を見に行きつつ、朝食と新聞を買いに行くこととする。
おはようございます。
ブログ再開して2ヶ月経ちましたね。
素晴らしい(꒪꒫꒪ノノ”パチパチパチパツ
ネタ考えるのも一苦労かもですが「継続は力なり」で細く長ーく。そして頭は柔らかく。
硬いのは…で…
今日も寝ていませんよね?
死ぬ気で頑張るのも良いけど死んでしまったらブログ読めなくなるので程々に~
こんばんは。
人はいつか死ぬから問題ないです。死ねば永遠に寝てられるから、それまでの間は単なる暇つぶしです笑
「人生は死ぬまでの暇つぶし」