やはり精神疾患?

・悪田が、朝の通勤列車内で幾度か目撃した女性がいる。

・明らかに、いわゆる「ホームレス」の風貌である。

・春になったとはいえ、ビリビリに破れた衣類、サンダルのようになった靴、それぞれの隙間から素肌が露出し、垢がこびりついて固まっている。おそらく、もう何か月も風呂に入ってないのだろう。

・年のころは60歳くらいだろうか。もちろん、車内には相当な悪臭が充満している。

・何度か目撃しては、そのままやり過ごしていたが、今朝は、ふと、声を掛けてみる気になった。

・「ちょっと、隣に座っていい?」「なによ、あんた。あんたの席はそっち(向かい)でしょ」明らかに怒りを露わにしながら怪訝な表情である。「ここ、荷物おいちゃったら、ほかの皆が座れないじゃない。もし良かったら隣に座らせてもらっていいかな?」「あんたの席はそっちでしょ」なかなか悪田を寄せ付けようとはしない。

・表情は明らかに不機嫌そうであるが、それでも周囲の目を気にしている。まさか、悪田に声をかけられるとは思っていなかったのであろう。ここは、深追いすることなく「声かけてごめんね」と詫びて、一旦、打ち切った。

・その後も遠巻きに悪田の様子を窺っている。そわそわと落ち着かない態度ではあるが、しきりに自分のヘアスタイルや、衣類のはだけた箇所を気にしては身なりを整えている。

・しばらくして、乗り換え駅が近づいてきた。彼女が、どこの駅から列車に乗ってどの駅で降りるのかは定かではないが、列車に乗る目的は、おそらく、寒さをしのぐためだろう。春が訪れた4月とはいえ、あの薄着では、まだまだ朝晩の寒さが身に染みる季節だ。悪田は、また、近いうちに再開することを確信しつつ、今日のところは、あいさつ代わりの声かけで終えることとした。

・下りる間際に「悪いことは言わないから、役所に行って保護を求めたらどう?ねえ、悪いことは言わないからさ」とお伝えした。彼女は「余計なお世話だ」と言わんばかりに怒りの表情を露わにしていた。

・悪田は専門医ではないので、診断できないが、おそらく、統合失調症や重度の発達障害といった精神疾患を有していると確信した。もちろん、このような身なりであるから、通院はおろか住まいや食にもありついていないだろう。睡眠も満足にとれてないと思われる。

・残酷な現実ではあるが、このまま放置すると、いずれ野垂れ死ぬだろう。だがしかし、福祉の基本的な考え方は「保護を求めない者に手を差し伸べない」が大原則である。

・彼女がどのような経緯でこのような人生を歩むようになったかは推察出来ないが、ホームレスという選択を自らした事情の中には精神疾患が原因となって、正しい判断が出来なかったという事情が垣間見えた。仮に彼女の周囲が、いくら保護を求めるようお勧めしても、容易には応じないであろうし、支援者がまったくいない状態では服薬管理はおろか、まともな日常生活を送るためのルールやマナーを守らせることも難しいであろう。

・まさに、世は無情である。とはいえ、これも何かのご縁かも知れない。何かの縁がきっかけで救われる命があるやも知れないと考え本日の声かけとなった。ふと、先日、亡くなった野良猫の「みーちゃん」を思い出した。

・亡くなる前日の雪の中、悪田の声を聞いて小屋から出てきた彼女は、うっすら積もった雪の上で「ニャー」と鳴き声をあげながら悪田にすり寄り、何かを訴えてきた。与えた餌は食べず、冷え切った水を舐めていた。

・もしかすると「暖かいところに連れて行って欲しい」と訴えていたのかも知れない。そう思えて仕方のない表情にも見えた。後になって考えると。

・ホームレスの女性は自らの自由意思に従って行動しているのだから、赤の他人が関与すべき案件ではないのかも知れない。しかし、その自由な意思形成が明らかに精神疾患により歪んでしまっているようにお見受けした。

・おそらく役所に連れて行ったら、担当者から相当に嫌がられるだろう。悪田も警察にいた時に、散々、似たような案件を取扱ってきたからその気持ちはよく理解できる。

・しかし、また今度、彼女にお目にかかった時には、役所への保護をお勧めしたいと思う。なぜか、最後の日の「みーちゃん」が「せめて、そうしてあげて欲しい」と言っているように聞こえたから。

 

 

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