・弊社の管理物件の中でも、特に区分所有者数が少ないマンションがある。管理会社としての採算性という面で考えると、正直、儲けは出ないと思われる。ただ、建造物の歴史的価値とか、お住まいの組合員の属性とか、このような、ある種、独自性のあるマンションを管理させていただいているという実績としては、管理をさせていただくことに付加価値がある。
・ごく当たり前のことだが、どの管理会社、特に大手では規模の大きなマンションの管理を行いたいもの。大規模マンションであればあるほど、収支は安定するし建物や設備の維持管理には、お金がかかるので不具合があれば直さなければならない。古くなってくると故障がつきものなので、頻回に不具合の報告が上がるようになってくると、管理会社としても改善提案を出す。改善するにはお金がかかるので、工事を管理会社が受注すれば、少なからず会社の利益となる。
・国土交通省が所管する、マンション標準管理委託契約書第17条第1項(免責)によれば「一 乙が善良なる管理者の注意をもって管理事務を行ったにもかかわらず生じた管理対象部分の異常又は故障による損害」「二 乙が、書面をもって注意喚起したにもかかわらず、甲が承認しなかった事項に起因する損害」と定めれている。すなわち、管理会社が善管注意義務をもって指摘した不具合に関し、注意喚起したにもかかわらず、管理組合からの承認が得られなかったものは免責事項となる。通常、不具合の指摘は理事会において、議案書によって行われ、あるいは見積書・提案書といった書面でなされるので、後になって「言った・言わない」ということがないようにしている。
・組合側としても、経年により建物・設備の不具合が起こることは分かっているが、何せ、先立つものがなければ改修しようがないというのが実態だ。緊急性が高く、場合によっては、金融機関からの借入れによって対応しなければならないものもある。しかし、そうならないようにするための資金計画として「長期修繕計画」がある訳で、何事も計画どおりに行かないにせよ、ある時期にある程度の修繕積立金があり、今後の安心感を共有することは、極めて重要である。
・さて、小規模マンションの収支に不安があるかと言えば、それは一概には言えない。悪田(の客)に言わせれば「金食い虫」の設備系不具合を順番に並べれば、立地や設備、規模にもよるが「機械式駐車場」「エレベーター」「消防用設備」「インターホンシステム」「給水タンク(ポンプ)」「排水ポンプ」「自動ドア」「宅配ロッカー」「通信機器設備」「キーシリンダー(集合玄関機・通用口)」「照明器具」「その他」といった順だろうか。他にもまだまだある。
・とにかく金がかかる。金がかかるのは分かっていても、不具合があれば直さなければならないのが泣き所だ。では、これらがない小規模マンションではどうか。それは、実に素晴らしいマンションだ。金のかかる設備が、そもそもないのだから、出費がない。修繕メニューの絞り込みがしやすいので、建物の規模に見合った修繕計画がしっかりしていれば、計画が立てやすいというのが最大のメリットだ。
・このマンションも規模は小さいが、金のかかる設備が少ないのが利点だ。だから収支が比較的安定している。
・このマンションでは「玄関ドアを一斉に交換しよう」という話が、前々から持ち上がっていた。もちろん長期修繕計画には、玄関ドアの更新はある時期のメニューに入っているが、数年、前倒しにして更新しようというものだ。主な不具合としては「ドアが重たくドアノブが抜ける」「建付け不良により開閉困難となる」「開閉音が建物内に響く」といったものだ。
・このマンションに取り付けられている玄関ドアの特徴として、各部屋のドアの形状・大きさにばらつきかあり、しかも「ピボットヒンジ」と呼ばれる、外側に張り出した形状のものが採用されている。また、鉄製のドアの重みにドアノブ一点に力が集中することと、開閉時の重みにドアクローザーの開閉速度が適切に対応し切れず、強い負荷がかかることで衝撃音が響くのと、ヒンジにも負担がかかるといった難点が指摘された。実はドアノブが外国製で、これを単体で交換するだけでも数十万円かかってしまう。
・そこで、玄関ドアを改修するに際し、全一式を国産のものとし、ヒンジを汎用性のタイプにして、ドアノブも「プッシュプル式」と呼ばれる2点抑え型で開閉に楽なものを採用することが検討された。もちろん、ドアクローザーもドアの重みにあった適正なものを導入し、ドア枠もドアのラッチの位置に合わせられるよう更新する計画だ。
・一番の問題は、玄関ドアの色彩・柄をどのようにするかといった点であった。これは正直、かなりの難儀であった。マンションという集合住宅の特殊性から、色と柄は統一すべきであろうとの意見でまとまったが、好みは人によってバラバラだ。
・そこで「投票によって意見を集約し、合議のうえ判断すべき」との意見がなされ、まとまった。メーカーからカタログを取り寄せ、回覧のうえサンプルを集め、さらにサンプルを回覧し、意見のとりまとめを行った。ここまでに、紆余曲折があり、実に3回、同様な作業を繰り返した。長く使うものだからこそ、しかも高い買い物だからこそである。
・アンケートを集計し、ようやく2点に絞り込んだ。この間にも組合員(全員が理事役員)さん「もっと早く進めて欲しい」との意見が寄せられ、今後、「周知方法はメール、会議はオンライン形式で進めて欲しい」との要望がなされた。遅延していた理由は、悪田が手を抜いていたからではないが、組合員にしてみれば単なる「言い訳」に聞こえるので、ここでの抗弁は省略する。
・いよいよ、悪田にとって、はじめてのオンライン会議が開催される。果たしてうまく行くのだろうか。正直、多少の不安はあれど、アプリの導入、告知用メールの設定、動作確認は完了した。後は、見積りと議案書を完成させるのみだ。
・なお、本来は総会決議が必要な事項ではあるが、組合員全員が事前に同意した内容の集会開催であり、総会決議事項と同一の効力があることを付記しておく。