能力のある幹部を育成する

・悪田が担当するあるマンションの理事役員で、非常に優秀な方がいる。頭が切れるだけでなく、穏健実直を絵に書いたような方だ。土木関係の設備屋さんであるようだが、マンション管理に関しては素人でありながら、まるで落語の裃を知っているような方だ。

・危機管理意識が高い。しかも、無理を押し通そうとしない。困った時には、消去法で判断する。いつも沈着冷静で住民から困っているとの声が寄せられた際を常に想定している。

・悪田の持論として「職業に貴賤はない」と主張させいてただいているが、こういう幹部の下で働く社員は、おそらく自由でのびのび、いきいきとしているのではないかと考えている。

・衆議院議員議会選挙が公示された。警察本部の選挙違反取締本部に詰めていると、いろいろな質疑があがってくる。中には警察署の古参知能犯係長が、いじわる半分に「公示と告示の違いを教えて欲しい」といった質疑を上げてくることがある。

・「そんな下らないことを言ってないで、選挙違反情報を取ってきて下さいよ」などと言おうものなら大変だ。「じゃあ、おたくら本部の方々は、どんな選挙違反情報を取って来ているんですか。それを真似て聞き込みに当たらせるので、そのあたりのご指導をお願いします」などと余計な話に食いついてくる。

・長く、このあたりの仕事に従事していると、世の中の(とはいえ限られた世界の中で)酸いも甘いも心得ている。自分の立ち位置の中で、どのように上司との良好な関係性を構築し、部下との接し方をどうするかをよく心得ている。一介の警察署の知能犯係長が、警察本部の選挙違反取締対策本部の担当者に「質疑」と称して、いやがらせをしている姿を部下に示すことは、間接的に自分の力量(恐怖心をあおる)を示す効果がある。

・「オレは誰にだってモノを言えるんだ」という姿を示すことで、部下にしてみれば畏敬というより、奇異な面倒臭さを感じるめ「面倒くさいからこういう上司にはあまり関わらないようにしよう」と考える。そして、与えられた指示に「はいはい」と答えて対応していれば、大きな波風が立つことなく円満にものごとが進む。いつの間にか選挙は投票日を迎え、シャンシャンと事故もなく収束する。こういう係長の下で働く部下は、いつまでたっても伸びない。やる気とセンスと能力を買われて登用された若手がいる専務係なのに、誠に気の毒な話だ。

・いったい、いつ、誰が考えたのか分からないが「署長招致検討会」というものが行われるようになった。警察本部が通達文を発し、日時を指定して署長を警察本部に招致する。報告を聞く立場にあるのは、キャリアの刑事部長だから、格上の人物だ。当然に正当性もなく「やっていない」と辛辣な評価をされてしまうと、署長としての指揮能力を問われかねないから、これに逆らう訳にも行かない。何の手持ちもなしに招致される署長は気の毒だ。反論も出来ず事務方に細かいクレームをつけるのがせいぜいではみっともない。

・そこには「違反情報をチャート(事件チャート)にして持参しなさい」と書かれているから、その所属において、現に捜査中の違反事件の取組み状況、今後の捜査方針に関しての報告が求められる。

・さすがに、警察署の幹部も自署のトップに嘘の報告をして下さいとはお願い出来ないので、必死に違反情報を収集する。こういう形で部下に選挙違反情報を取ってこいと指示すると、だいたいは「選挙情勢」に関するネタを収集するようなる。

・そんなものは、新聞を読んでいれば収集出来るから不要だと説明しても、どこにそういう情報が落ちているのか、皆目、見当がつかないので、皆、情勢に走る。やり方を具体的に指示していないのだから致し方ない。

・そのために集められた捜査員は、上司からの「選挙違反情報を取ってこい」というだけの指示で動かなければならないので苦痛で仕方ない。三日も従事するとアンテナの低い捜査員はだいたい根をあげる。

・できる幹部はこのあたりが違う。

・人を有機的に使うことが出来るため、人を集める段階で各人の特性を良く見ている。対話能力に長けているか。協力者はどういう人物なのか。前向きに主体的に任務を遂行しようと努力するタイプか。人の見ていないところで手を抜くタイプか。などなど。

・そして、期日が訪れる以前に、計画的にこ推進すべき事項に的を絞っている。それも一つや二つではない。優先順位をつけながら、このあたりの実態解明はこの時期までに、この基礎捜査はこのあたりまでというように、スケジューリングに余念がない。

・告示であろうと公示であろうと、どうでも良いことだが、要するにスタートの合図が出される前に、こういう絞り込みをやっていて、署長招致検討会には、署長にこういう報告をしてもらうことを既に図式化している。

・もちろん、警察本部もそういう小回りの利く係長の元で動いているので、優秀な捜査員がその人を中心に有機的に連動しつつ、それぞれが、今、何をやるべきかを誰から指示されるまでもなく心得ている。

・こうなると、後は目標に向かって動くだけとなる。

・成果が上がる部署には、かならず小回りの利く優秀な幹部がいて、こういう人物は、やはり有能な幹部に鍛えられて大きくなっていく。

・伸びる組織とはそういうものだ。

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