お客様事情いろいろ

・マンションという共同住宅に住んでいると、いろいろな人間模様に接する。人の考え方は十人十色であるから、すべてのご要望に対応することは無理だ。しかし、それらのご要望に、なるべくお応えしたいと考えながら、悪田権三は、超スペシャルフロントマンを目指すフリをしている。本音は今すぐ卒業したい。

・お客様からのすべてのご要望に対応出来るかどうかは、やってなければわからないから、明確に「これだ」と判断できるものを除き、とにかくやってみるようにはしている。こんなことをやっていると、深夜・早朝まで仕事が続き、会社に泊まり込みもしばしばとなる。

・昨日も、いただいたご要望に対処しながら、ざっくりと、こんな一日を過ごしていた。

・自転車の駐輪ステッカーを500枚仕入れ、区画の利用者にあてて場所を再確認しながら、ステッカーの配布準備を半日かけて対応した。結局は、集会の時間が迫ってきたため、時間が足りずやりきれなかった。

・ある日、自分が使っている区画に無断で自転車が止められた。「自分の自転車が置けない」という苦情が寄せられた。訴えたお客様は、理事会への報告を切望されたので、悪田が理事会に報告し審議された。

・結果、今の駐輪ステッカーは、貼っている人と貼っていない人がバラバラで、今後、きちんと貼ってもらうことで管理されるべきだ。管理会社にて、ステッカーを仕入れ、区画利用者に一区画あたり2枚配布し、1枚を乗り物に、もう1枚を区画の適宜な場所に貼付するよう、掲示と全戸投函で対処して欲しいとの要望を受けた。

・ところが、ある区画に契約が判然としない場所があることが分かった。何年にも遡って契約を確認するも、手続きが行われた形跡が見当たらない。毎月の料金も徴収されていない。結局、現場を確認したうえで、本人に聞いてみるしかないということになった。

・話が変わる。午後からの集会の内容だ。

・あるマンションで、建物使用細則の変更を行おうという審議が続いていた。これまでに何度も理事会での審議を続け、次の通常総会への議案上程の原案作成まで漕ぎつけた。

・変更のメインは①上階からの寝具や干し物等が落下する被害が後をたたないので、いわゆる、ベランダの「腰壁」への干し物を禁止とする内容への変更。②ベランダでの喫煙被害で体調不良となった。このため、ベランダでの喫煙を禁止するための建物使用細則への変更。

・いずれも、これまでに住民アンケートを実施し、理事会議事録を全戸に投函し、審議の経緯を居住者に対し、丁寧に説明してきた。関心をもって見てくれている人からは、意見が寄せられ、可能な限り、この意見を理事会に伝達するを繰り返した。

・結果、いわゆる「腰壁」への干し物禁止は、強風による私物が飛ばされる事案の防止を周知させることも含め、使用細則の「補足事項」にての解釈の中で明記することとなった。すなわち、現細則の有効性を見据えつつ、ここに手を加えるのではなく、解釈論という形で補足することとする。

・一方、喫煙に関しては、これまでは、そもそも共用場所での喫煙を防止する規定がなかったから、喫煙禁止を新たに明確化する。共用場所は専用使用権のある「ベランダ」も含まれるが、一般の住民には分かりづらい内容なので、あえてベランダでの喫煙禁止を明確化する。

・喫煙禁止とともに、いわゆる「タバコの吸い殻のポイ捨て」も迷惑行為の最たるものなので、これも禁止すべきとして、ポイ捨て条項に記載すべき、行為の態様を「投棄」と記載した。すると、理事役員から「ベランダが共用場所であるならば、専有部・専用使用権の設定されている場所での喫煙禁止を明示する必要はないのではないか」との質問が寄せられた。

・実はこのあたりの上位概念は、マンションの管理規約にあり、ベランダは共用場所となっている。ところが、区分所有者の多くはベランダや専用庭は専有部と誤解している人も多いので、あえて、この細則で分かりやすく記載して周知させる必要があることを説明した。

・すると、役員から「投棄とは何か、どこからどこへ投げ捨てることか。タバコの吸い殻は落ちているものであって、投げ捨てるというものとは行為の態様で違うのではないか」などの質問が寄せられた。前から認識していたことではあるが、おそらく、この方は担当フロントマンが嫌いなのか、何でもルールで縛られることが嫌いな自由主義者なのか、あるいは、本日はご機嫌がよろしくないのかではないかと見受けられた。

・ちなみに、悪田権三の出身地である北海道では、ゴミを捨てるという行為を、「ゴミを投げる」という。警察官を拝命し、警察学校で全国から集まった同期生との共同生活の中で「ゴミ投げる!?捨てるだろ」などとよく驚かれたものだ。

・だからゴミは投げるが正しく、捨てるものではない笑。少なくとも禁止というルールの取決めを行ううえで、そもそも落ちているものを禁止するということはあり得ない。投げる、捨てる、指ではじく、床に叩きつけるなど、マナーの悪いタバコのみの最後の仕草はだいたいこうなのは、西部劇を見ていると実に分かりやすい。

・それを一切、荒野の酒場の店先でタバコを吸うこともNGにしましょうということを、荒くれ者のガンマン達に周知させようという単純な話だ。だからこそ、この部分での「投棄とはなんぞや」という質疑は、単なる幼稚な上げ足取りでしかない。

・話が変わる。

・同マンションの理事役員より、ある賃借人が宅配ロッカーを2か所占拠しているとの要望をいただいた。「いつまで経っても荷物を取りに来ないから、オーナーに行って解消して欲しい」とのことでオーナーに連絡、実はこれで3回目の同じ連絡だ。ただ、今回は居住者からの苦情なので、オーナーにやんわりとお伝えし、明日には解消するとの言質をいただいた。

・話が交錯する。

・悪田の会社のパソコンに入ったメールが携帯電話に転送された。「今、理事会で腰壁への干し物禁止を制定していると聞いているか、〇〇号室の住民がまったく意に介さないので、そんなことをやっても無駄だ。罰則を設けて罰金を取れ」との内容。すぐにメッセージを返すと、余計にややこしくなるので、とりあえず、今は静観することとした。

・さらに話が交錯する。

・マンションを退館しようと片付けをしていた時、タバコ禁止の細則変更に反対する居住者さんから声を掛けられる。悪田は理事会に、いわゆる「電子タバコと蒸気タバコを除外して欲しいという申し出がある」ことを伝えることを要望されたお客さんだ。先程で言うところの、いわゆる「荒くれ者のガンマン」の一人だ。

・本日の理事会にお伝えしたが、そのご要望は全く聞き入れられなかったことを伝えたところ、大いに落胆されていた。「何だよ、蒸気タバコも吸えないのかよ」聞けば、家族はタバコが嫌いで、自分で購入したマンションなのに、家では吸わせてもらえないのだそうだ。

・気持ちは理解出来るが、これを理事会や総会の席で報告したところで、喫煙反対派からは、かえって総攻撃を受けるだけだと推察されたため、悪田は慰めの言葉で理解を示すのが精一杯であった。

・実はほかにも、まだまだ別のお客様から「人感センサーライトが壊れている」とか、「植栽の植え替え提案は〇〇の植物を5株購入すべきだ。肥料やシャベルを用意して欲しい。都合の良い日程はこの日だから、その日で調整して欲しい」などなどの要望がメールや管理員を通じて寄せられたが、既に、本日の悪田の許容量を超えているので、後日、調整予定だ。

・話が交錯する。

・帰りがけに、駐輪場で現に使用されているかどうか分からない区画があるマンションを覗いてきた。自転車が使用されている形跡はなかった。何かの手違いなのかどうかはご本人に聞いてみないと分からないので、後日の対応とすることとした。

・フロントマンの仕事が途切れないのは、つまり、世の中が平和に動いているからだと考えつつ、ようやく悪田は帰路についた。

・しかし、昼に慌てて会社を出る際に、引継がれた車にガソリンが入っていなかったのはショックだった。悪田がこんなに忙しそうにしている姿は、たぶん、他の社員の目にも平常モードにしか映っていまい。自分で出来ることは、自分以外の人をアテにしてはいけないということを、本日、学んだ。

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