しかしスッキリ

警察組織の素晴らしいところは、一生懸命に仕事に取組み、成果をあげた者を賞揚してくれる点にある。

業務には難易度があり、難易度が高いものほど単独で対応することが難しい。チームが一丸となって有機的に機能させること、ミスをフォローすること、勝負の場面でエースを登用すること、組織を横断的に俯瞰すること、上司をうまく使うことが重要だ。

悪田権三はこのあたりがあまり上手ではなかったようだ。

特に人を上手に使うことが苦手だった。やる気のない者は放っておけばいいと考えていた。何もせず批判ばかりする者は不要だと考えていた。そんな連中に無駄な時間を費やすくらいなら、自分一人で仕事を進めた方がはるかに効率的だと考えていた。

結果、刑事の世界をつまみ出され、その後、肩を叩かれ、志願して警察を辞めた。

そういう意味では、マンション管理会社のフロントマンは自分に合っていると考えていた。一人親方、個人事業主のような立ち位置で仕事が出来る。もちろん、上司に監督されているのだが、そこに精通しているのは自分だけだという自負心があった。

顧客のニーズをよみ、先回りして商材を提供し、満足感を持ってもらうことで期待に応えられると信じていた。

難易度の高い仕事も果敢に取組んで成果をあげてきた。夜も寝ずに家にも帰らず、朝6時前から休みなく働いた。

たぶん警察にいれば、それなりの評価に当たる業務内容であり、成果だろうと考えられる。

ところが、悪田権三を批判的に評価する顧客が次から次へと現れる。

ここは警察ではないから、どんなに献身的に努力をしたところで、当たり前だと考える顧客や、それに対し批判的に幼稚な我を張る相手に対しては響かないことが理解していた。

しつこいメールで煽られる、罵られる、上げ足を取られる。

結果、悪田は「はい、分かりました。もうやってらんねぇので、責任をとって私は辞職致します」とのメッセージを送り退職を決めた。

上司からは「なぜメールを送信する前に一言、相談しないのか」と問われた。しかし、相談したところで止められるのが関の山。どうせならスッキリと終わらせたかった。

さて就活だ。

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