電話の向こうでの人間模様

・当番のために出社した。当番とは「事案対応」のための電話番だ。まあ、しかし、よく鳴る。ひっきりなしだ。

・悪田がまだ、物件を持たされていなかった新人のころ、かかってきた電話を片っ端から取ってみて、一日に何本取ることになるのかを数えてみたら、何と76本だった。

・すでに退職したある社員と退職理由について立ち話をしたことがあった。その方は、いわゆる「内勤」の仕事をしていた。我々、フロントは常に顧客と接し、取り組んだことに対して成果を喜び分かち合い喜びを共有することが出来ることが羨ましいと言っていた。内勤の人は、縁の下の存在であるため、仕事を下支えすることが本来業務。仕事の成果は外で働くフロントの手柄となってしまう。自分も実働でやりたいが、会社は認めてくれない。そのことにやり甲斐を感じられなくなって退職を決めたのだそうだ。

・たぶんひっきりなしにかかってくる電話の対応に嫌気がさしたのだと思う。

・よく会社では「従業員の資質向上」とか「業務効率の改善」とか「意識改革」「働きやすさ」などなどを問題提起し、改善に向けた取組みを行っている。難しく捉えがちなことも実は簡単だったりすることがある。特に業務の効率性や改善されることによる本来業務への集中などを考えれば、パートの電話番を雇えばいい。ただそれだけだ。

・そもそも、人は一つの業務に集中したいものだ。業務へ集中して取り組みたい矢先に鳴った電話の対応に追われるとそれだけでストレスを感じる。全員が積極的に電話を取るものでもないから、特に忙しい時には不満要素ともなる。本来業務が進まず、自分の守備範囲以外の業務に振り回され続けると、それでなくても不満に感じていたことが、余計に嫌なものに感じてしまう。昨日の一例を挙げるとこんな感じ。すべて悪田の担当物件以外のお客様からの電話だ。

・ある物件を新たに購入したという不動産業者からリフォーム申請の方法についての問い合わせを受けた。担当者は外出中であったため、申請用紙をメールで送り、申請手順や注意点をご案内した。まあ、これは通常のサービスの中での対応であり、特段、強いストレスを感じるものではない。マンションという共同住宅において、修繕工事をしてリニューアルを図りたいという要望と、これにより発生する騒音に対する対応の均衡を図るための制度をトラブルなくご案内することの趣旨が理解出来ていれば問題のない業務だ。

・次に、専有部内のエアコン設置に関する問い合わせ。リフォーム後に購入したマンションの区分所有者さんが、室内用のエアコンをつけたいと考えたが、ある部分に「ここは隠蔽用の配管が設置される場所なので、エアコンを取り付ける際は注意が必要です」とかかれている①。また、ベランダにエアコン用の室外機が残置されている②。さらに、そのベランダに面した別の部屋には、エアコン用の通気口とコンセントが設置されているが、そこにエアコンを設置しても良いか。との質問ですべて専有部に関するものであった。

・「専有部分内のことなので分かりません」と答えても良かったのだが、それでは管理会社の取組姿勢としては消極的な印象を与えてしまう。そもそも隠蔽用の配管の意味が悪田には理解出来なかった。このため、周囲に聞くと、隠蔽用の配管とは、室内の窓や壁穴が通せない箇所にエアコンのドレン管や配線を通すための空洞だそうで、この工事を行うためには、専門の業者の手配が必要となるとのことだった。そこで悪田は相談者にメールで写真を送ってもらい、マンションの竣工図面とで照合しながら、検討をした。

・管理会社御用達の業者でも対応可能であるが、費用面での問題や取り付けるエアコンの価格にも関連してくるので、基本的には、お客様自身で業者に問い合わせを行ってもらい、取り付け可能かどうか、費用はどのくらいかかるのかを調べてもらうべきとのことだった。

・同様に、③に関しても、いわゆる量販店で購入したものが取り付けられそうではあるものの、安い買い物ではないので、一度、専門業者に相談して取り付け可能かどうかを調べてもうべきとのこと。一方で②に関しては媒介の不動産業者さんに連絡して、残置物の撤去・処分をお願いしてくださいと案内した。

・念のため、物件担当者に隠蔽配管について確認してみたが、担当者自身もよく理解できていなかった。このあたりのご案内に関しては、専有部内の重要なインフラに関する問題で費用負担が伴うものだがら、誤教示はトラブルの元となる。知らないことも、経験を重ねることで知識が広がり、今後の実務に役立つものだと感じた次第である。

・次にクレームの電話を取った。あるマンションでスプリンクラーの工事が行われたそうだが、バルコニーに干した洗濯物が水浸しになってしまった。「どうしてくれるんだ」とお怒りの電話だ。悪田の担当物件ではないから意味がさっぱり分からない。スプリンクラーが誤作動して、屋外の洗濯物が水浸しなど考えられない。こちらから、逆に質問すると余計に怒りのテンションが上がってくる。「やるならやるで何で住民に周知させないんだ」と感情的になっている。

・こういう時は、その場の空気感を読み、確認して担当者から電話をさせると案内するのがベストな対応だったりする。・で、担当者に連絡をすると、こういうことだと分かった。

・本日、マンションで連結送水管の交換工事があったため、作業員が配管を触った。送水管には湿式と乾式というのがあり、乾式は寒冷地用で使われるもの。連結送水管は火災が発生した際に、消防車が放水のために送水校口に接続し消火活動をするためのものだ。配管内には圧力がかかっていて水が注入されている。

・配管を交換する作業のため、管を外すのだが、その際、管内に満たされた水に圧力がかかっているため、勢い良く吹き出す。その際にバルコニーに干した洗濯物を濡らしたというクレームである。なるほど話が繋がった。よく理解出来た。

・担当者に電話の内容を伝えたところ「ああそういうことか」と衝撃を隠せないため息が漏れていた。実はこの作業が本日、行われるに際し、この社員が作業に立ち会っていた。管理会社が立ち会わなかった作業でのクレームであれば、立ち会わなかったことをお詫びすることになるが、立ち会っていたとなると、施工方法に関して対応がまずかったのではないかとの問題が起こる。

・まずは、取り急ぎ、ご迷惑をおかけしたことへの謝罪が必要で、施工をどうすべきだったかは、事後の対応として考えねばならない。

・自分が顧客だったらどう思うか。せっかく洗濯した衣服が消防用水で濡らされれば、それがわざとではないとしても、やはり怒りがこみ上げてくるだろう。

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