毛虫が出た

・悪田権三が担当するいくつかのマンションで、平日の夜に理事会が行われるところがあり、それに対応すべく準備をしていた矢先、携帯電話にショートメッセージが入った。

・「毛虫が出たのだが、敷地と隣接する公有地との境目に雑草が繁茂している場所は消毒したのか確認して欲しい」とのことだ。正直、内心では「たかが毛虫が出た程度で大の大人(男)が何を大騒ぎか」である。管理会社フロントマンの、この感覚には賛否両論があると思われるが、批判は甘んじて受ける。繰り返すが、悪田にとっては、所詮「たかが毛虫」だ。

・「やった」と即答したいところだが、取り急ぎ今は、理事会を直前に控えていたので、後で回答することにした。集会が終わり、自宅に帰ってからメッセージを返した。

・「消毒は間違いなく行いました」自信を持って返答した。というのも、その男性が、毎年、この時期になると「毛虫が出た」と騒ぎ出すのは、恒例のようだ。確かに去年もそうだった。

・確か、昨年10月の理事会で消毒を要請され、植栽業者への手配がまごついている間に12月になってしまい、年明けに実施結果を報告したところ「完全に時期を失しましたね。あの毛虫は10月~11月にかけて出るんです。来年はこのようなことがないようにして下さい」と言われたのを覚えていた。

・だから今年は、8月の時点で毛虫の消毒をどうするかを、理事会で審議して発注承認をいただき、9月の植栽管理に併せ、やってもらった。その時、業者が「こんなところに撒いても公有地でバンバン雑草が伸びてくるので意味がないから無駄なお金はかけない方がいい」とのアドバイスが植栽管理業者からあった。

・しかし、悪田はあえて「無駄なお金をかけてもいいから必ずやって欲しい」と言ってやってもらった。去年、言われた嫌味が脳裏に残っていたことと、たかが毛虫が出たら、絶対に「言っておいた場所は消毒したのか」と言われるからだ。案の定、その予想は的中した。

・悪田は毛虫ダンディーに宛て、このようなメッセージを送った。「公有地の管理者様には既に3回お願いし、9月中にやると言っていたものが10月中になり、さらに、11月中に先延ばしとなっています。たぶん、管理会社がいくら言ったところで、右から左だと思いますが、念のため、明日、もう一度言いますか」

・すると大の大人からは「毛虫は笹の葉っぱのところにいて、雑草を伐採したところでいなくなりませんから、笹を中心に消毒をお願いします。公有地の管理者には管理会社から伐採をお願いして下さい」「前の管理員さんのⅯさんは自ら公有地の管理者にバンバン電話をして伐採をやってもらっていましたが、今の管理員さんは何もしてくれません」いったい「やれ」と言っているのか「やる必要はない」と言っているのか意味が分からない。

・こうしたリクエストを受け、悪田は本日、公有地の管理者に今年(今シーズン)4回目の電話を入れた。今週中にやってくれるそうだ。そして、そのマンションの管理員さんに、時間があれば殺虫剤を噴霧して笹の葉を中心に消毒して欲しい、出来なければ悪田が時間を作ってやりに行くとお願いした。

・管理員さんいわく「毛虫が生息しているところは、笹の葉ではなく、すすきの葉っぱのところだ。植栽管理の業者とともに確認したので間違いない。今年は事前に消毒したから、毛虫はほとんど出ていない」とのことだった。おかしい。どうも話が噛み合わない。

・ほどなくして管理員さんからメールがあり、殺虫剤で消毒しておいたが、2~3匹しかいなかった。大袈裟ではないのか。とのことだった。皆、たかが毛虫に振り回され、自分以外の人をけん制している。

・悪田は、元このマンションの担当だったという先輩にM管理員のことを伺うと意外な答えが返ってきた。Mさんは元々、大企業の重役だったそうだが、態度が大柄で、しょっちゅう、顧客やフロントといさかいを起こしていたそうだ。

・公有地の伐採や、管理者への電話もしないでもないが、多くは、フロントマンを捕まえては、頭ごなしに「やれやれ」で一方的に捲し立てる、恫喝するの繰り返しだったそうだ。公有地の管理者への電話も、ほとんどかフロントマンがやっていたが、顧客の手前「オレが電話してやらせた」などと吹聴していたそうだ。

・そんな態度なのに掃除が嫌いで建物が汚いから、顧客からのクレームも多かったそうだ。それで、あるクレームをきっかけに、その進退を窺ったところ、自ら身を引かれたそうだ。

・なるほど、どおりで。毛虫のことは毛虫のことをいちばん良く知っている業者に駆除方法を聞くのが良い。敷地外の雑草の繁茂は土地の管理者にお願いを繰り返すしかない。ものわかりの悪い顧客には、管理会社が死にものぐるいで頑張っている姿を見て知ってもらうしかないだろうと感じた。

・ただし、顧客がフロントマンの苦労を理解してもらえることはあり得ないだろうから、毛虫と同様に地中に潜り、じっと春の訪れを待つことにしよう。虫だけにつまらん顧客のわがままに対してはムシするのも手だ。冬が近づいてきただけにオヤジギャグも心なしか寒い。

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