・管理員業務の7割は清掃業務だと認識していたが、実際にあるマンションで長く勤めていただいたベテラン管理員さんから「いや9割だ」とのご意見をいただいた。清掃業務の質が管理の出来・不出来としていちばん目につきやすい。特に共用場所である廊下、階段、エレベーター内が汚い、あるいは汚れが残っていると「管理員はきちんと清掃をやっていないのでないか」と思われがちだ。
・夏のこの時期はクモの巣が凄い。一週間も放置しておこうものなら、廊下、階段、蛍光灯の隙間などいたるところがクモの巣だらけになってしまう。悪田の経験から、特に女性はクモの巣を嫌がる。蛍光灯の脇などは夜になると明るくなって虫が集まるので、クモにとっては格好の餌場となる。このような状態か一週間も放置されると張り巡らされたクモの糸に大量の虫がくっつき汚く見えてしまう。
・ある管理員に言わせると、夏場はクモとの戦いだそうだ。とにかく、屋外での清掃業務は重労働だ。管理員さんは年配の方が多いので、夏は暑く冬は寒い過酷な条件での仕事となるので、特に夏の熱中症には、こまめな水分補給、適度な塩分窃取、冷房器具の活用などにより気を付けてもらうようにと、お声掛けをさせていただいている。
・エアコンといった冷房器具が備え付けられている管理員室であれば、休憩時間に適度にクールダウンしてもらい、熱中症予防に努めてもらうのだが、エアコンのない管理員室がけっこう多くある。お金がないから設置しないというマンションもあるが、物理的に取り付けられないマンションもけっこうある。既に辞めてしまったが、ある管理員は、エアコンがついていないことに不満を述べ続け、それはフロントマンが管理員業務のたいへんさを理解しないからと位置付け、散々、悪田に恨みつらみを並べて「この会社は酷い会社だ」と言い残し去って行かれた。
・たぶん、遠くない将来において、この世を去られる年代の方。悪田の母親とほぼ同じ世代だ。まるで、親に叱られているような錯覚に陥ってしまいがちだが、悪田はつくずく、この人が自分の親でなくてよかったと感じた。そういう気持ちは、いちいち口にせずとも、お互いに伝わるものだ。
・自分がアホだと思えば相手もド阿呆だと思う。それが漫才ならばネタにもなろうが「お客さんのために、力を合わせてかんばりましょうね」という段階において、チームの一員から承諾出来ないことを突き付けられてしまうと、そもそもチームプレーが成立しなくなる。
・悪田がその管理員さんから嫌われたのは紛れもない事実だが、一方で、管理員室にエアコンが取り付けられない理由を丁寧に説明した。その代替案として、集会室のエアコンを使っても良いことを、理事役員さんから承諾をもらい、熱中症対策として休憩時間は集会室を利用して良いことを説明したが、それでも理解を示さなかった。
・この管理員さんの勤務は、平日の午前9時から午後0時、一日、3時間の労働だ。お昼ご飯を食べる必要もなく、午前中だけで業務が終わる。残業を求めることはないから、仕事が終われば帰っていただいてよい。仕事の都合かつくなら、報告内容を含め、上手に調整してもらっていい。暑い管理員室で書き物をするのが嫌なら、それを求めることはしない。
・しかしこの管理員さんは「自分の金で管理員室に窓枠タイプのエアコンをつける」とただをこね始め、それでは、夏の暑い時期に、外から帰ってきたお客さんに、エントランスで熱風を浴びせることになると説明しても聞く耳なし。仮に、その奥の管理員室で管理員が涼んでいる姿をお客さんが見たら果たしてどう思うか。それは間違いなく、お客さんが不快に感じるから、ダメだと説明した。しかし「自分の金でエアコンをつけて何が悪い」と全く耳を貸さなかった。では電気代は誰が払うのか。と悪田は問うたが「そんなもん、俺が払ってやる」と言い放ち、結局、ダダをこねた子供のごとく、そこに理解を示すことなく辞めた。
・その管理員さんが辞めることとなった直接的な原因は、お客さんからの清掃のクレームだった。まったく清掃している形跡がない。すっと同じ場所にゴミが落ちているし、クモの巣も酷いという内容の意見が寄せられた。
・この件に関し、悪田が直接、本人にそれを指摘した場合、今までの経緯を捉えて、悪田が管理員さんに仕返しをしたと解釈される可能性があったので、悪田は直接、本人にその話をするのをやめた。間違いなく、再びエアコンの話を蒸し返し、本来業務とかけ離れたところに行ってしまうので、悪田は、顧客から清掃のクレームが挙がっていることを上司を経由して指導していただいた。
・この管理員さんは勉強熱心な方で、管理業務主任者の資格を持っていて、前の管理会社では清掃員ではなく、管理員として働いていたそうで「オレは清掃員じゃない、管理員なんだ」と二言目には口癖のように述べていた。しかし、小さいマンションで管理員が一名配置の場合、管理員は清掃員を兼務しているのが当たり前で、冒頭に記載したとおり、管理員業務の9割は清掃であることを認識しないと、そもそも心得違いとなりかねない。
・その後、その管理員さんと面接をした悪田の上司を経由して、その管理員の仕事ぶりが社長の耳に届いたそうだ。社長はえらく立腹したようで、次の雇用契約を更新しないと判断し、本人には、何も知らされることなく、その管理員さんの後任が決められた。
・悪田は、その管理員さんにお世話になった挨拶のため、お伺いしたが、最後は会社の恨みをただただ述べるだけで終わった。
・新管理員さんは女性だった。清掃が好きで綺麗好きだということを話しておられたので安心感がある。着任して約一カ月後の理事会で、理事役員さんに評判を窺ってみた。すると、女性の理事役員さんから「こないだ驚いたわよ、消火器を雑巾で磨いていたわ、あんな姿、初めてみた。真面目な方なんですね」との評判であった。
・今、この話を書いていたところ、その女性管理員さんから、偶然、「集会の議事録と月次会計報告署の投函が理事役員さんからありました」との電話があった。悪田は「暑いので熱中症に気を付けて下さい。集会室のエアコンを使っていただいてオッケーですので」と申し添えたところ「ありがとうございます」と明るい返事が返ってきた。