・悪田権三が担当する物件中、管理員室にエアコンが標準装備されているマンションの比率は4分の1程度である。装備されていないマンションの方がはるかに多い。
・先日、管理員の熱中症対策と題し、その仕事が激務で、夏場は特に屋外の作業に伴い危険があることを書いた。しかし、様々な事情から装備されていないマンションが多い。最大の理由は「お金」だ。
・悪田の持論として、マンションであれ戸建てであれ、本来、自分の家は自分で守るべき。業者任せにすることは悪いことではないが、小規模マンションの場合、すべてを業者任せにしていると、将来的に修繕資金がショートしてしまう心配がある。
・そもそも、長期修繕計画とは、将来的に予想される建物、付属施設、設備、外構等、修繕のために出費が予想される次期に備えた資金計画を立てることだ。ところが、現実問題として、これらは区分所有者の都合どおりの時期に改修が必要となるのではなく、壊れて欲しくない時期に壊れてしまうものだ。
・修繕を先延ばしに出来るものであれば、懐事情を考慮して判断することになるが、中にはお金がなくとも先延ばしに出来ないものがある。その最たるものが給排水管ポンプ、電気・水道・ガスといったライフライン、消防設備機器、機械式駐車場など生活や安全安心に欠かせない設備や機器である。物事には何事も優先順位があるから、区分所有者にとって、管理員室のエアコンは必然的に後回しになる。
・比較的規模の大きいマンションの場合、区分所有者が多い分、定期的に組合に入る収入は小規模マンションに比べて多い。収入が多いと出費に対する戸当たり負担も少なくなるから、運用資金面では小規模マンションに比べればはるかに楽だ。こういうマンションの場合、しっかりとした管理会社に管理をお願いし、理事会を定期的に開催して管理会社に必要な報告を求め、理事役員間で協議を行って適正な運営を図って行けば将来への不安は、ある程度、払拭される。
・しかし、小規模マンションの場合はそうはいかない。集合住宅に住んでいる以上、時期が到来すれば修繕に費用がかかるもの。どのマンションにも必ずしも、資金が潤沢にあるとは限らない。資金がない場合、最悪、借入れをしてでも修繕しなければならないよう事態も起こりえる。その結果、将来的に安心して長く使用することが出来て、ゆくゆく収支が改善されていくのであれば、借入れをしてでも実行した事業は成功だったということになるが、そうでない場合、悩みが増える。
・エアコンに話を戻す。15年近く使用したエアコンであれば、そろそろ不調が起きてもおかしくない時期だ。いわゆる寿命で、修繕するより買い替えを検討した方が安くつくことが多い。品物を比較するとまさにピンキリであり、何が違うのかを家電量販店の店員に尋ねると「消費電力が違う」のだそうだ。性能に優れた機種は本体価格が高い分、高出力で、かつ、消費電力が少ない。古い技術の機器は価格が安いが消費電力が多い。長期間使用した電力を比較するとハイスペックの方がランニングコストが安くなるので、結局、お得だということになるのだそうだ。
・しかし、管理員室に導入するエアコンの場合、フル稼働させるのは夏のほんのわずかな時期に過ぎないので、ハイスペックのものは必要ない。しかも、わずか3畳程度のスペースを冷やすだけだから常にフル回転させている訳ではない。なるべく名の通ったメーカーで国産で、壊れにくいものをチョイスしたいと考えた。そのうえで、まずは価格を比較し、結局、設置費用、既存品の処分代等を含め、7万円を切る価格のものを選択した。二流メーカーだが、国産の手ごろなものを見つけた。そして、見積りを取得したうえで理事会に諮り、発注承認を得た。
・実は、管理会社の正規ルートで見積りを依頼したところ、驚くほどの額だった。とても理事会に提案出来ないほどの高い金額であった。理由は簡単、定価だからだ。白物家電の場合、定価で購入しようという人はまずいない。しかも設置費用が別にかかってしまうから、どうしても高くついてしまう。このあたりは、どんなに努力しても量販店にはかなわないから、給料日前の、この金のない時期に、自分の貯金をおろして、立て替え費用を捻出することとなった。
・もちろんポイント付けなど出来る筈もないから、悪田にとってのメリットは何もない。しかし、組合さんの厚意で設置してくれることに感謝して、管理員ともども、誠実に業務向き合っていきたいと誓った。