・悪田権三が県警にいた当時、市民・県民の方々からたくさんのお叱りをいただいた。そもそも、どんな組織、職場においてもクレームはつきものだから「苦情を持って来るな」ということを求めること自体がナンセンスだ。しかし、現実にそういう指示をする幹部はけっこういる。
・表題の言葉を担当者が客から仰せつかった時、そのまま前触れもなく、上司に引継がれてしまうと、引継がれた側の上司としては、そもそも何にどういう対処をして良いか理解していない。知識ゼロからスタートして、相手の言い分を聞き、事実関係を調べて、当方の落ち度があれば謝罪し、必要な指導と再発防止を教養し、経験値が向上する。そうすることで細かなミスが大事に至る前に、所要の措置が図られ、相手にとっても当方にとっても良い結果をもたらす。
・世間では、いろいろな事象に対して、謝罪会見というものが行われるが、最高責任者が公に謝罪するというのは、実はたいへんなことだ。そもそも、組織の最高責任者の仕事は、すべての業務を統括し、俯瞰し、戦略を練り、実行のタイミングや必要な修正を指示し、結果を出すことだ。
・業務全体の、ほんのある部分に不具合があったとして、その不具合が、今後の組織運営全般に深刻な影響を及ぼしかねないものだった場合、それは対処方法を誤ると、大火傷に繋がりかねない。特に、謝罪という手段は、あるシナリオの帰結として公にされるものだから、宴会のおしまい時の一本締めように「イョーオッ」「シャン」と終わらなければならない。
・締めが終わった後に、残党が居残り、部下や後輩に説教をしながら、上席が残したつまみや、飲み残しの酒をもったいないとばかりに手をつけている姿は、実に浅ましい。一次会が不完全燃焼に終わり、憮然として弱い立場の者に絡み、お店の人にも「早く帰らないかしら」と思われるくらいのだらしない飲み方をするくらいなら、有志を募り座を変えればいい。もちろん、飲み代は上司・先輩持ちだ。
・このように、謝罪とはあるイベントにおける「イョーォッ、シャンシャンシャン」の締めと同じであるから、謝罪した後にまた、同じ不備が見つかるというのは絶対にダメだ。そうならないように、スタッフや幹部それぞれが、予算・店・コース(メニュー)を考え、開始・終了時刻を段取り、どのタイミングで主催者の挨拶、あるいは、来賓の辞をいただくか、乾杯の発声は誰がやるのか。各出し物はどういう内容のものとすべきか、中締めはどこで、誰の発声で行うか。最後の締めはとうするかなどの、練りに練られた諸準備が行われてこそ、ピタッと締まる。
・この段取りが悪いと、クレームを言ってきた客は、既に怒りが頂点に達しているのに、求めてもいない芸当を見せられ困惑し、終いには信頼関係が完全に破綻してしまう。謝罪の場であるにもかかわらず、宴会芸の延長とばかりに、上半身裸にマジックで描かれた顔を表情豊かに変化する芸当を見せられても、客は怒りを通り越して呆れに変わってしまう。
・さて、客の前に担ぎ出される上司や幹部もきちんと実務を理解し、内容に精通し、部下を監理監督出来る資質や素養を持った人物を選定しなければなない。当然に客が「上司を出せ」と言っているからには、その反対解釈として、部下に「お前じゃ話にならん、責任者を連れて来い」という意味だから、それ以上に話が通じない人物を充てたところで解決はあり得ない。
・また「上司を出せ」の段階で、既に客の立場として、ある意味の解決に向かうためのヒントを与えてくれている訳だから、結末のつけ方が分かっている人が対処しないと余計にややこしくなる。もちろん、適当にあしらって、部下に差し戻すというのは絶対にNGだ。客は担当者に対する信頼を完全に失っている局面において、また同じ場面に差し戻されると、その上司に対する、ひいては組織全体に対する不信感につながる。ここは潔く、上司が指揮権を剥奪し、相手方が納得行くまで、あるいは、元に戻して欲しいと頼まれるまで寄り添って対処しなければいけないことを覚悟すべきだ。
・あるフロントマンで、よく客からのクレームを引く人がいる。穏健実直な人でにこやかなのだが、不思議とよく引く。
・悪田が知る限り、引継ぎを受けた事案を含めいろいろとあったが、主な内容は「対処が遅い」「やると約束したことをやらない」「不備を指摘したのに改善されない」といったものだ。このあたりは、悪田も同じ業務に従事するものとして耳が痛いが、先延ばしにしても良いものと絶対にダメなものがあるので、常に、自分自身の中で優先順位をつけることが重要だ。
・特に、保安や警報設備といった、居住者の命を守るための安全面、生活をするうえで欠かせないインフラに関する不備への対処は最重要なので、これが復旧するまでは帰らない。休みを取らないというくらいの気構えが必要だ。居住者が水や電気が使えなくなっていることを知りながら、フロントマンが対処も手配もせず、ほったらかして家に帰ったことを知ったら、たいていの人は怒るだろう。このあたりの話になると、そもそも担当者の問題だ。
・また、理事会運営において、上記のような指摘を受けると、今後の運営において深刻なダメージとなってしまうから、事実関係を明らかにして、今後、改善が期待出来ないのであれば、潔く担当者を変えることも選択肢とすべきだ。
・理事役員さんから「議事録が遅い」とか「議事進行内容と違う」との指摘は、悪田に言わせれば、着地点を設定せずに行き当たりばったりで運営を行っているからこそだ。マンションという共同生活の場においては、いろいろな局面において不平不満が出て来るが、どんなに努力をしても解決しにくい問題もある。ただ、それに向けての努力を継続していれば、だいたいの人は理解を示してくれる。
・解決できない問題を無理に解決しようとすると、かえって角が立つから、なるべく穏便に平穏無事に事が快方に向かうよう調整することが重要だ。
・現在、詳細は判然としないが、上司が頭を抱えている案件があるようだ。独り言のようにぼやいている言葉をつなぎ合わせると「謝罪文」「相手が納得しない」「再発防止策が甘い」「謝罪は謝罪として監督官庁への報告を求めている」などの語彙が漏れ伝わる。
・これを聞いた悪田は「客の属性を把握せず、とりあえず日本古来の芸当(腹踊り)で、その場を取り繕うと試みるも、かえって紛糾するから要注意」と勝手に想像を膨らませてみた。