・週末にやや内容の濃密な理事会が3本あり、悪田権三の先週はきつかった。一方、悪田の目の前に現れた新人を見ていると、定時に来ては定時に帰り、昼はしっかりきっちり1時間の休憩を取って、ご飯を食べた後、気持ちよさそうに寝ている。実にうらやまい。
・書類を書いている姿や、自分の担当物件のお客様、取引先と打ち合わせをしている、あるいはやりとりをしている姿を見たことは一度もない。もうとっくに研修期間が終わった、悪田と同じフロントマンでありながら、気が向いた時にだけ電話を取り、それ以外はずっと管理業務主任者試験の勉強をしている。
・何でも、弊社の上層部は、彼に相当の期待を込めているらしく、2年越しでしっかりと教育し、一人前のフロントマンに仕立て上げ、ゆくゆくは会社の表看板の幹部となるべく養成し、けん引役となってもらうのだそうだ。2年後が実に楽しみだ。ただ、口だけの幹部がここにも養成されるかと考えると、わが社の行く末も先行き不安だ。その時、たぶん、悪田はここにはいないだろう。
・悪田も警察官として、いろいろな新人を見てきた。品行方正で優秀な警察官ばかりではないし、愚図でノロマ、やることなすことダメなのもいた。そういう自分も若いころから、先輩方に叱られ、罵られ、散々、理不尽な仕打ちを散々受けてきた。
・人生が必ずしも自分の思い通りになるとは限らない。むしろ、そうならないことが多い。
・悪田も自分のやりたいと希望した仕事をやらせてもらえなかったことがあった。また、一生懸命に昇任試験に取り組んだものの、実力が足らず不合格だったこともあった。また、自分が先頭に立って事件を指揮してきた中、本来、自分たちがやらなればならない仕事を部下たちが放棄して、逆切れし離反されたこともあった。結局は「悪田の指揮が悪い。強権的だ」と反旗を翻され1対7の戦いに負けた挙句に刑事の世界から追放された。この時は退職を決意して、上司に申し出たが、強く慰留され、結局はとどまった。
・あの時、辞めていたらどうなっていたか、たぶん、今の悪田はなかったと思う。
・悪田自身も自分の至らなさに反省をしなければならないと感じることがある。
・だからこそ、良い意味で学びの機会を与えてくれた警察組織に感謝している。
・今、悪田がこうして平穏無事な日々を過ごせているのは、警察が治安を守っていてくれているから。また、一個人として、悪田のような未熟者を組織に留め置いていただいた、そこで学んだ数々のご指導のおげだと感謝している。
・警察官を拝命して退職するまでの間、いろいろなことがあった。苦しいこと悲しいこと、逃げ出したくなったことや、皆で喜びを分かち合ったこと、酒を酌み交わし盛り上がったこと。仲間の不幸に泣いたこと。いろいろなことがあったが、やはり、答えは一つ「警察官になって良かった」これだけだ。
・本題に入る。
・不動産屋(本来は宅地建物取引業者、不動産業者というべきだろうが)が超ムカつくことがある。あまりにもムカついたから、今日はやや、乱暴な口調になることをお許し願いたい。
・管理業者にとって、区分所有者は大事なお客様だ。理由は管理費を払ってくれるからだ。管理組合と管理会社は管理委託契約に基づいた、①事務管理業務、②管理員業務、③清掃業務、④建物設備管理業務を締結している。契約を締結している以上、お金をいただいて対応しており、そこには善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)が伴う。当然、プロとして、お客様の財産である、マンションを管理している訳だから、求められる責任は、高度な度合いのものが求められる。当然に、フロントマンも心身・人格・能力とともに高いレベルが求められる。
・区分所有者が宅建業者であることはよくある。棚卸資産としてマンションを購入し、リフォームし再販するということは日常、ごく当たり前のように行われている。実際に居住用マンションでは、理事役員の要件を現に居住する区分所有者(実住)と規約で限定している物件もあるので、所有者である不動産業者が理事会運営にかかわることはまれだ。
・一方、媒介の業者がいて、これがけっこう横柄な態度だ。口の利き方で、その業者のレベルが分かる。たぶん勘違いをしている。その理由は、区分所有者である、管理会社にとってはお客様である相手から、媒介契約を受け、半ば自分が「売主」あるいは「買主」的な立場に立っているからだ。
・悪田は相手がお客様(区分所有者)であれば、下手(したて)に出るが、媒介不動産業者の場合はお客様ではないから、余計な忖度はしない主義だ。あまりに度を超えた非常識な態度をする者には、それなりの態度で対応させていただく。
・それでは、売主が困るだろうと言われても、管理組合にとっては、どうでも良いこと。例えば長期修繕計画などは、簡単には見せてやるつもりはない。これは、ある種、お宅の将来的な設計図のようなもの、よほど信頼おける相手以外の人に見せるつもりはない。
・ましてや、その内容次第で買うか買わないか判断するような、どっちつかずの顧客に「出来が悪いから買わない」などと吐き捨てられては、たまったもんじゃない。物件が悪い訳ではない。そもそも、他人の家を当事者のご都合主義で勝手に値踏みしておきながら、よその家庭の台所事情にまで影響を及ぼす家計簿やら預貯金通帳、加入している生命保険や旦那の源泉徴収、はたまた人間ドックの受診結果やら出来の悪い息子の通信簿などを見せろなどと頭ごなしに言ってくること自体、虫が良すぎる。そんな大事なものは簡単にはお見せ出来ません。
・簡単に今日のやりとりを記す(以下悪田を「悪」、チンピラ媒介業者を「チ」と記載)
・悪「お電話いただいた「心の通う管理(弊社)」の悪田と申します」
・チ「はぁ、あんた誰?」
・悪「昨日、お電話いただき、私、終日、外にいたものですから、電話したんですけど、お出にならないので、改めさせてもらいました。「こころの通う管理」の悪田と申します」
・チ「ああ、「こころの管理」か。携帯でかけてくるからわからねぇじゃねえか」
・悪「携帯でかけちゃいけないんですか」
・チ「は。だって分からねぇだろうよ」
・悪「では、管理会社であることが分かったのですね。では私は忙しいのでこれにて失礼させていただきます」
・チ「おい、ちょっと(電話切断)」
【「チ」から折り返し】
・チ「あのさぁ、俺もいろいろと電話受けてるからさぁ、誰からの電話か分らねぇって言ってんだよ」
・悪「そうですか。ところで、我々は、お互いにお客様商売をしているんですけど、お宅は、お客様に対しても、常にそういう態度で接していられるんですか」
・チ「はぁ、重調(重要事項調査書)取ったらさぁ、ちょっと分かんねえことがあったから電話したんだよ」
・悪「あのね、お宅さあ、街のチンピラじねぇんだから、そんな口の聞き方するのやめなさいよ」
・チ「(急に態度を変える)〇〇号室の媒介を受けているんですけど、長期修繕計画と過去の修繕履歴が知りたいんですけど、ございますか」
・悪「もちろんありますよ。欲しいんですか」
(以下省略)
・送信後「チ」から「迅速なご対応ありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします」とのメッセージあり。
・本当は、泣くまで説教してやりたかったが、大人気ないのでやめておいた。ただ、口の聞き方ひとつで、相手の経験値や能力が分かる。
・どんな、業種であれ、職種であれ、一流を張っていられる者には、それなりの品格が染みついている。悪田はまだまだ未熟者だから、今日はチンピラ不動産屋と同じ目線に立って、腹立たしい思いをちょっとだけ感じた。
・それでも、向上心だけは忘れないよう精進しようと誓った。センシティブ情報はおいそれと街のチンピラには見せられない。