管理会社は寄生虫

・悪田が担当するマンション管理員さんからメッセージが届いた。内容は「部屋にカメムシが入って来るので何とかして欲しい」との要望が寄せられたとのこと。4階に住む居住者さんからの依頼だそうだ。

・虫だって生きている以上、至るところに出没するから、人間の都合どおりには動いてくれない。ともあれ、このマンションの場合、周囲の形状から雑草が繁殖しやすい環境にあり、秋のこの時期には管理会社に伐採依頼が寄せられるため、悪田は事あるごとに土地の管理者である公共機関に電話でお願いをしているのが実情だ。

・公共機関は真摯に対応してくれるが、肝心の伐採時期に関しては、いつ実施してくれるかを確約してくれない。たぶん、相当に広範囲なエリアをカバーしているため、個別の案件にまでひとつひとつ対応している余裕はないのだと思われる。

・「10月中には何とかします、実施日が決まりましたらお知らせします」はとっても丁寧な方で、「やります」と言ったきり、放置されてしまうこともしばしばだ。やられないまま、時が経過すると、そのうち、居住者から管理会社に不満の声が寄せられる。担当者としては、既に何度も同じお願いをしているのに、お願いした先が動いてくれないから、それ以上動きようがない。

・しまいには「管理会社は何もしてくれない」のような不満の声が寄せられる。この「何もしてくれない」という評価が悪田にとっては、正直、特に、腹立たしい。何もしていないのではなく、積極的に動いているのに、結果だけを捉えると何もやっていないように見える。だが、どんなに自分自身が主体的に動いたところで、土地の所有者であり管理者である公共機関が「やるやる」と言いながら、それを放置すれば、そのあたりの事情は居住者さんには伝わらないから、結果として管理会社は何もやっていないように見えてしまう。

・だったら、そもそも自分たちのマンションなのだから、管理会社を通さずに、直接、申出を行ってくれれば良いのであるが、面倒くさいことをやってくれるのが管理会社だから、そのために毎月、金を払っているんだという意識があり、どうしても管理会社=雑用をやるのが当り前という図式となりがちだ。

・㈱億山が所有する平塚市山下に所在する土地の媒介契約を地元の不動産会社に依頼した。

・以前、悪田が不動産業を営んでいた時に、持ち込んだ物件で縮小した後も定期的に物件確認の電話をいただいていた業者で、地元の平塚では屈指の老舗業者だ。今回、専任媒介契約をお願いすることにし価格を880万円から850万円に値下げした。

・実は同じく、地元の平塚で長く不動産業をやられている別の業者さんが、先日、お客さんをご案内してくれたのであるが、悪田はこの業者さんに、ただいま別の不動産業者さんに媒介依頼の準備をお願いしていることを話したところ「当方としては報酬は分かれで構わない」と言われた。

・このタイミングで成約するのであれば、正直、50万円くらいの値引きには応じられることと、客付け業者の方で契約をまとめてくれるのであれば、いわゆる「両手」を取ってもらっても構わないことを話したが、お客さんをご案内してくれた業者さんは、成功報酬は「分かれ」で構わないとのことだった。ただ、実際にご案内をしていただいた結果、お客さんからは「しばらく考えさせてほしい」との回答で、すぐには回答は出ないだろうとの反応だった。

・不動産の売買はタイミングだから、それは致し方のないことだ。そこで、悪田は媒介の下話しをしていたその業者さんに、この前提があるうえで、値下げを決めたことを説明した。業者さんも悪田の顔を立て「専任媒介でなくとも一般媒介でも構わない」と言ってくれたが、まあ、それはそれ、客付け業者さんが分かれで構わないと言ってくれているものに寄り過ぎてしまえば、かえって過度の期待をかけてしまうことになる。

・過度の期待が実らなかった結果が不調となってしまうと「あの時、こうしておけば良かった」と後悔の気持ちが沸き起こる。特に不動産売買はタイミングだが、前に選任媒介を依頼した知り合いの業者さんは、不動産ポータルサイトはおろか、不動産指定流通機構にすら登録をしてくれなかったことを考えれば、とにかく、売買に責任をもって対応してくれる会社に期待したいところだ。

・業者さんは、悪田がいまだに宅建業者だと認識していたようだ。悪田は「心の通う管理会社」で専任の管理業務主任者になっているから、専任の宅建士との併任が出来ず、心の通う社の社長から、宅建業の免許を返納するか、別に専任の宅建士を設けるなどして、コンプライアンスに留意して欲しいと言われた。このため、㈱億山は宅建業者ではないことを説明した。

・「管理業、よくやりますね。ストレスたまるでしょう。私なら絶対に無理ですね」と言われた。多くの宅建業者さんは、皆、一応にそういう。例えば、前記のカメムシなどまだ可愛いものだ。

・家に帰ると、コールセンターからの電話があった。正直、今日は、午後から休暇を取得したので、あまり出たくはなかった。その内容は「宅配ボックスに入れた荷物の引き取りが出来ない。業者が暗証番号を間違えて入れたため、引き取りが出来ない。今すぐ開けて荷物を取り出せ」という内容。コールセンターの社員も理不尽な要求を突き付けられ、辟易としたような雰囲気が感じ取れた。

・実は、かなり理不尽なわがままを言う居住者であることを悪田は把握していた。細かくは書かないが、いろいろとあり、困り果てていた。電話をすると、荷物を届けろとの要求であったが、それは対応出来ないことを伝えた。すると、管理員への不満、続いて悪田への不満へと話がつながった。

・内容は極めて稚拙なもの。かなり語彙が少ないうえに、とにかく文句を言いたいという気持ちが先行しているから「お前はバカだ」「俺がクビにしてやる」「お前ら管理会社はマンションを食い物にする寄生虫と同じだ」「お前の前任者はとてもいい人だったがお前になってから住みにくくなった」「お前には能力がないから担当者を変えろ」などなど。

・たぶん、悪田が真剣になって「売り言葉に買い言葉」をすると、勝機は確実であったが、その戦いに勝ったところで、管理会社が果たすべき本来の目的には達しないことは明白であったから、適当にあしらって、電話を置かせていただいた。口汚く、幼稚な言葉を繰り返すだけの単純な内容だったから、かえって怒る気すら湧かなかった。

・上司にやりとりの一部始終を報告し結了とした。管理員にメールで週明けの月曜日に荷物の取り置きをしておくようお願いした。

・この勝負、怒らず冷静に対応した悪田の勝利である。カメムシに始まり寄生虫で終わった一日だった。「虫」だけに、次回からこの種の理不尽な要求は「ムシ」したいものだ。とはいえ、何もしてくれないと言われるのが、悪田にとってはいちばんの不名誉な言葉なので、帰りがけに「36種の害虫に効く」と書かれた殺虫剤をホームセンターで購入した。代金はもちろん、後日、組合にご請求申し上げる。

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