・利益相反取引とは、ある取引きにおいて、一方は利益を生じるとともに、もう一方には不利益が生じる取引を言います。
・利益相反が起こりやすい例としては、一人が二つの役割を持つ場合に自らの地位を利用した利益相反行為が行われることが多いようです。
・例えば会社を例にとると、ある取締役が、別な立場を有していて、これを発注、あるいは契約を交わすことが、一方の利益となるとともに、他方において不利益となるものです。
・これをマンションに例えると、ある管理組合の理事が、マンションの修繕工事を自ら経営する会社に発注するといった場合が該当します。
・ただし、マンション管理実務において、これに類する取引を横行しているのも現実ではあります。
・発注者である管理組合は、いわゆる「権利能力なき社団」で、理事役員も輪番制の無報酬であることが多く、組合で発注する工事や契約が安価であることに越したことがないからです。
・マンションには修繕がつきものですから、どの理事役員も信頼と実績のある業者が妥当な価格で、きちんと修繕工事を行ってくれれば、個々の責任を追及される心配はありません。
・発注実績のある業者が他社よりも安価な見積りを出してきた場合、この取引が仮に利益相反であったにしても、そのまま決議が通ってしまうことが、ままあります。
・今回、事例で紹介する共用部鉄部塗装工事もそうでした。
・屋上の防水(ウレタン防水)工事とともに、管理組合が理事役員の親族が経営する工事業者に約770万円で発注したものでした。
・しかもこの工事業者は、本業は防水塗装業者ではなく、いわゆる「丸投げ」の工事の元請業者でした(これを違法ということではありません)。
・総会決議の際に「〇〇さんの親族の会社なら発注実績もあるし、しっかりとやってくれるだろう」といった安心感があり、誰しもが疑念を抱くことなく、承認決議が諮られ、それから、約一か月に及ぶ改修工事が行われました。
・工事完了後、理事役員とともに管理会社も立ち合い、完了確認を行いました。
・ところが、一年後、当時の理事役員の一人が異変に気付き、管理会社に連絡をしました。外階段全体の特に、いわゆる「蹴上げ」と呼ばれる立ち上がり部分に、広範囲な錆が発生していました。
・早速、連絡してくれた前期理事役員とともに、現調するとともに、広範囲の発錆を確認し、写真撮影による立証措置を行い、直ちに施工業者に連絡をしました。
・ところが、その二日後、施工会社からは驚きの回答があり、思わず悪田権三は耳を疑いました。
・何と、発錆の原因は施工不良によるものではなく「防水材である『長尺シート』の劣化による浸水が鉄部に影響を及ぼしたもので補修工事を行っても再び同様の状況になる」「長尺シート張替えの提案をするので、必要があれば見積りを提出する」「うちはケレン(錆落とし)もしっかりとやったので工事に落ち度はない」といった回答でした。
・この案件は、前述のとおり、利益相反が絡む管理会社にとっては厄介な案件となりました。区分所有者である、工事発注当時の理事役員が受注した工事となると、管理会社にとっても今期の理事役員にとっても、施工不良を指摘しづらいのが人情というものです。
・かといって、管理会社には、いわゆる「善管注意義務」がありますから、これを理事役員に報告しないという選択肢はありません。
・そして、理事会で協議の結果、管理会社と取引実績のある、施工会社の有資格者に調査してもらい、見解を窺おうということになりました。
・ほどなく、大規模修繕工事で多くの実績のある工事統括部長で一級建築士による検証が行われました。
・その結果、長尺シートの劣化による浸水を完全否定することは出来ないが、仮にそれが原因であったとしても、一年程度で起こる蹴上げ部分の発錆はせいぜい5㎝程度、これほど広範囲な錆が広がる原因は、ケレン不足によるもの、いわゆる「手抜き工事」との見解でした。
・早速、この検証結果を理事役員さんにお便りにしたため報告しました。時期同じく、前回理事会の議事録の署名・捺印入りの完成版の写しをマンション区分所有者へ全戸投函しました。
・利益相反取引が「良いか悪いか」の問題ではなく、そもそも常識的に考えて、区分所有者の顔、はたまた、元請業者の顔は完全に潰されたと、悪田権三は確信しました。
・近々に理事役員さんの指示を受け、管理会社として施工会社に再施工を命じます。お願いをするのではなく、施工不良を改善するよう命じるスタンスで臨みます。
・それに応じるかどうかは相手次第ですが、管理会社として信義に則り、本来、受注した業者が果たすべき責任はとっていただけるよう伝えて参ります。
・管理会社として、区分所有者に忖度するものではありませんが、その見えない力関係に漫然と胡坐をかいて暴利を貪ってきた悪質な業者には相応の報いが必要だと感じています。
・管理会社など舐められてなんぼのものですが、善良な区分所有者まで舐められたのでは、管理会社の名折れとなります。そもそも、やましい利益相反取引さえなければ、このような問題は起きませんでした。
・ちなみに、当時、この契約をまとめた、悪田権三の前任者は、完全に見て見ぬふりです。助言も労いの言葉もありません。完全に知らんぷりです笑
・本案の結果はおってお知らせ致します。