・悪田権三の好きな歌詞に「みんな最初はビギナー」だみたいのがある。正確には違う表現となっているが、ファンに叱られるので、そのようなニュアンスと受け取って欲しい。人は少なからず何かの職について収入を得ようとする局面において、失敗を重ね学んで行く。仕事によっては、ある資格を持っていないと、特定の業務に就くことすら出来ないものがある。
・資格とは言えないが、警察官においても、行政手続き面において、司法巡査には認められず、一部、例外を除いて司法警察員のみに許される業務が定められている。司法警察員とは、巡査部長以上の階級にある警察官をいい、一部、例外というのは「司法警察員巡査」という役職を与えられた者を言う。要件は犯罪捜査に従事して2年以上、あるいは特定の駐在所で勤務する巡査の階級にある警察官である。そもそも、そこに巡査部長以上の幹部を常時配属するのが困難だから、特例的救済措置を設ける意味合いがある趣旨だと理解できる。
・司法警察員のみに与えられる、行政手続きの主なものは「告訴告発自首の受理」「検視(検察官の行う検視の代行)」「引致(身柄の引き渡しを受け留置の必要性を判断)」「送致権(一般的には行政機関の長が行う)」などが挙げられる。司法巡査にはこれらの権限が与えられていないから、上記以外の警察官がこれらの手続きを行うと違法ということになる。ただ、実務上、例えば要告訴事件の被害届を巡査が受理することは告訴の受理に当たらないから、交番を訪れていちいち警察官の階級を尋ねる必要はないのでご安心いただきたい。また、行政手続きと書いたが、よく「司法権ではないか」と勘違いしている人がいるが、それは誤りだ。司法権を持っている機関は裁判所のみだ。警察の仕事は刑事訴訟法で定められた手続きを行うことはあれど、司法権を行使しているのではなく、公務員として法に定められた行政手続きを行っているに過ぎない。
・さて、弊社の事務所には「11月28日(日)マンション管理士試験」と書かれたポスターが貼られている。国家資格であるが、意外と知られているようで、関わりのない人には馴染みが薄い資格かも知れない。年々、受験生の減少が続いているようだ。似たような資格で「管理業務主任者」という国家資格がある。マンション管理会社でフロントマンとして仕事をするうえで、この資格を有していることは非常に意義深い。特に、後者は「ないと非常に不便」やや、厳しい言い方をすると「保有していないと、どんなに管理実務に精通していても半人前」だといえる。違いはこうだ。
・マンション管理士は組合側の立場で資格をもって組合運営の助言をするための資格だ。コンサルとしての立場で組合運営をサポートし、理事会や総会といった集会、規約や細則の見直し、組合会計業務や長期修繕計画の策定、大規模修繕工事の監理など、専門的知識をもってマンション運営全般をサポートする役割りを持っている。「名称独占資格」と言われている。言い方を変えれば、名乗らなければよい、マンション管理士でない人がこれを名乗ると名称使用制限に違反し、30万円以下の罰金という罰則がある。資格の難易度としては、制度発足以来、合格率は一桁台で一貫している。
・一方、管理業務主任者は「業務独占資格」と呼ばれ、そもそも、資格がないと出来ない業務が3つある。①重要事項の説明、②重要事項説明書への記名押印、③管理事務報告である。特に①の場合、担当フロントマンが無資格者の場合、有資格者を派遣して重説をやってもらわなければならない。元々この資格を作るに際しては、宅地建物取引士を真似て作ったと言われている。真似て作られただけあって、細部で似通った制度が見受けられる。合格率は年によって違うが、20から25%前後で落ち着いている。
・どの管理会社でも、自社に有資格者が何人いるという実態は、スキルを持っていることの証となり、ひいてはサービスの質の高さをアピールするうえで優位であることから、社員に取得を促し、有資格者に手当てを支給している。会社にとっても、従業員にとっても持っていた方が得だから、試験勉強を推奨している。だが、心得違いをした推奨方法が行われているのも実態だ。特に、新人に対しても、管理業務主任者資格の取得を推奨しているのは良いのだが、本来、仕事をして実務能力を学ぶ機会に「やることがない」として試験勉強に取り組む時間を与えている。言い方を変えれば、仕事中に勉強をさせてもらえる訳だ。無資格者にとっては最高の会社だと言える。就業時間中に勉強をさせてもらえるわけで、晴れて資格が取得された暁には、主任者手当が貰える。もちろん実務経験がないと合格しても、登録実務者講習を受けなければならないが、それに要する費用も会社が負担してくれるという破格のサービスぶりだ。
・このチャンスを逃さない手はない。と考えるのが普通だ。管理会社のフロントマンは、警察官と違い、潰しが効く仕事だ。現在、努めている会社の待遇に不満があれば、自分の能力に合った会社を探し、そこで、存分に能力を存分に発揮すればいい。我が国は良くも悪くも競争社会なのだから、努力をして結果を出せば、それに見合った恩恵が与えられるのは必定だ。
・ただ、恩恵的に与えられて得られた結果など、意味のないものだと悪田権三は考える。勝負の世界であるスポーツに例えるなら、最良の結果は「良い内容で勝つこと」次いで、「悪い内容で負けること」、最悪なのが「悪い内容で勝ってしまうこと」である。本番で良い内容で結果を出せることは、それまでの努力が結果に結びついた証として、称賛に値するが、悪い内容で勝ってしまうと、そこから慢心が芽生えるきっかけとなる。仕事であれスポーツであれ、取り組んだ結果が必ずしも成果に結びつくとは限らないが、適当に片手間で取り組んだ結果が、偶然にも国家資格の取得に繋がることもないとはいえない。しかし、その程度で取得出来る難易度の資格など持っていても意味のあるものとは思えない。度合いの違いはあれど、資格もスポーツも努力の結果で勝ち取ったものだからこそ価値がある。
・実務能力に優れ、経験豊富で人脈があり、顧客のニーズに迅速に対応して先見性をもって準備を行い、加えて会社のために成果を挙げられるフロントマンこそが、エース級である。もちろん必要とされる資格を保有していることは絶対条件だ。警察社会であれマンション管理会社であれ、エースが業務の主力となって組織を支え、豊富な経験を部下の指導育成に生かし、組織はさらに成長して行くものだから、絶えず勉強を続けることが大切だ。その入口として資格を取得することは、難易度の高い仕事に取り組む最初の一歩であるとも言える。
・だからこそ、質の高い勉強をして勝ち取れる合格には価値がある。仕事の片手間に、暇があるなら試験勉強をしろなどと言う会社は、自社が三流の組織であることを社員に知らしめているような組織だと考える。