町内会への強制加入を定めた規約は無効

・マンションの管理規約に、いわゆる自治会・町内会への強制加入を定めた条文が明記されていることがある。マンション管理業を所管する協会の見解によれば、同条項は無効と解されている。これは実際に悪田も問い合わせた。大手管理会社のOBと思われる、すぐに怒る男性ご年配者も、質疑でそのように回答してくれた。

・町内会費は地域によって差があると思われるが、悪田の知る限り月額200円~300円程度である。決して大きな金額ではないが、マンションの場合、多くは毎月の管理費にて一斉徴収し、管理会社にて取りまとめ、年度払いとして町内会からの請求に基づき世帯分を一括で支払っている。実際に弊社が管理しているマンションでは、そういう会費の支払い方法がほとんどだ。

・悪田が、これまでに幾度か実施させていただいた加入の是非を問うアンケートにおいて、多かったのは「塵も積もれば山となる」「町内会の会計は不透明」「町内会館がとにかく遠く配布物を取りに行くだけで負担」「一部の役員で飲み食いして輪番制の班長など蚊帳の外」「寄合で給仕をさせられた」「役員からセクハラめいた言動をされた」「子供会に入るために加入は必要」「大きな災害が発生した時はどうするのか」「ゴミの収集において不便が生じないか」等々の意見であった。

・寄せられた意見や不安について、役所の主管部局や町内会長への問い合わせを行ったところ、地域によって差があるものの、だいたいの問題は解決されることが分かった。まず、その前提において、町内会への加入が可能となるのは、その区域に居住していることが必須となる。横浜に住んでいる人が、小田原の町内会に加入を希望しても管轄違いを理由に断られると思われる。また、加入を強制されることはない。それはマンションであれ、戸建てであれ、加入脱退は個人の自由だ。

・某政令市のHPには、自治会・町内会における規約制定・変更の際にモデル条項としたひながたが公開されており、それによれば「加入脱退は個人の自由」「申請があれば加入脱退を認める」といった内容が書かれている。すなわち、マンションにおいて、例えば、町内会への一斉加入に、一人でも反対する居住者がいれば、脱退は自由となるので、会費の一斉徴収一括支払いという制度は成立しなくなる。

・このあたりは、加入の是非を総会で審議するまでもなく、アンケートを実施するたけで、住民の意向が賛成派・反対派に分かれるので明確だ。悪田がこれまでに実施したアンケートは、まだ、ほんの数例だが、だいたい5~8割は全体加入に反対といった意見が寄せられた。管理組合で実施するアンケートは、その是非を決定づけるものではないから、その結果を見て加入脱退を決めるものではない。しかし、やれば結果は明白だ。

・加入脱退の是非を決定する審議の方法として、通常総会の審議で決定するという方法が無難ではある。ただし、その審議を図る方法は、必ずしも個別議案化して審議するという方法が望ましいとは限らない。理由はこうだ。

・あるマンションでは、アンケートの提出が3割以下、全体加入反対が8割を超えるという結果だった。要するに無関心、しかも提出者の多くが、加入に強く反対。このような状況では、果たしてマンション全体における合意形成が諮られているのかを読みにくい。そもそも無関心のまま、無効の制度を運用し続けていたことを誰も問題視しない。「どうでもいいが辞めるなら役員が回って来ないから助かる、会費の徴収もなくなるから有難い」といった文言が議決権行使書の余白に記載されていた。

・このマンションの場合、悪田はある裏ワザを使って全体加入をやめるという審議を行った。アンケートの提出状況を踏まえ「一人でも反対する状況の中で加入を継続することをどう考えますか」という切り口で質疑応答を行い、結果、賛成多数により可決承認された。もちろん、これは議案を上程した理事会の意向を汲んだものであり、悪田の策ではない。

・「災害」「子供会」「ゴミ」の問題に関しては、町内会により個別に事情が異なるが、補完措置がなされている町内会がほとんどだ。災害の際、救援物資の配布は、町内会が唯一の窓口でなく、地域ごとに自治体で定めた備蓄箇所があり、例えば学校や公民館などに非常時のために設けられている。発災時には、そこで受領することが可能だ。子供会に関しては、町内会に入っていない子供だけを阻害する運用をしない配慮がなされている。イジメの温床になるからだ。また、子供会は町内会の下部組織なので、本来は町内会に入ることが条件だが、特例として子供会への加入を認める配慮がなされていることが多い。ゴミに関しては、例えば防鳥ネットなどの備品やゴミステーションの設置場所が私費あるいは私有地だった場合の問題が生じることがある。しかし、マンションの多くは、その敷地等に集積場所が設けられているので、ゴミ捨てに関する問題やトラブルが生じることは少ない。

・このようなことから、総合的に判断し、全体での加入をやめ、個別での加入に移行するマンションが増えつつある。もちろん、管理会社は、本来、この業務には主体的にかかわっていないので、関与すべきではないが、実際には、管理会社が橋渡し役となって、手続きを後押しし、新たに加入したい人にアナウンスを行い、漏れのない引継ぎを行っている。

・一方で町内会側としては、全体での加入をやめられてしまうことは、大きな痛手になるとのことだ。ある町内会に「配布物を取りに来て欲しい」と呼ばれ、そこで役員さん達に取り囲まれ、詰問された経験がある。どうやら、町内会の全体加入を画策して、健全な運営に水をさしている悪い管理会社と見られたようだ。この時、悪田は町内会役員から、脱退による会費の減少や補助金がもらえなくなるといった窮状が、現状においてかなり深刻であることを聞かされた。管理会社が、このような立ち位置に置かれ悪者になることは、この商売をやっていると日常茶飯事だ。

・なお、町内会への全体加入を定めた、いわゆる「精神条項」と呼ばれる規約は無効と解されるが、無効である規約も規約として成立している以上、立派な規約である。改正には「特別決議」が必要。ただ、4分の3以上の決議が取れないのであれば、必ずしも変えなければならないものでもない。組合員に対する拘束度合いとしては、強制力の順に「区分所有法等の定め」「総会決議」「規約」という序列となっている。したがって、町内会の一斉加入を改めたいが、規約が変更できないとお悩みの組合さんは、どうぞご安心いただきたい。法は無理を強いるものではない。

 

 

 

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