・警察において「参考報告」という言葉にはかなりの注意を要す。某都府県では「注意報告」と呼ぶそうだが、その、いわゆる「アレ」とは違う。意味の分からない人は、是非、トモダチの警察官に聞いて欲しいが、ここではあえて触れない。
・よく部下が上司にひととおりの報告を終えた後に「ちなみに参考までに報告しますが」という前提つきの報告を受けることがある。
・悪田が言う参考報告とはまさに「ソレ」である。報告をする側の部下にとって、本音は仔細までを上司に知られたくないが、一切、報告をしないまま、後でバレて報告をしなかったことを咎められると報告義務違反で反則一本負けを取られる恐れがある。
・ならば、差し支えない程度に上司の気をそらし、一応、耳に入れておいたことにして、後になって蒸し返された時に、既に報告義務を果たしたことを伝え、責任を回避、あるいは多少なりとも緩衝しようという超高度な知能犯的手法だ。忍術で言うところの「忍法雲隠れの術」である。決裁書類を筒状に巻いて口にくわえ、煙とともに消え去れば、後で証拠を見つけ出すのはなかなか困難だ。
・警察という組織には、義務教育である「初任科」から、最高学府と呼ばれる「大学校」まであるから、その階級・経験値・専門性ごとにいろいろなことを学ぶ機会が与えられる。5年以上、学校教養を受けないと「長期未入校」として、当局から洗脳教育が遅滞していることを指摘されるから、ある時期にまとめて人選された職員を集めて缶詰教育をさせるという、親切心に満ち溢れた手当てをしてくれる。
・面白いもので「〇〇学校」「〇〇研究所」などの名がつく所属においては、それこそ、田舎の小学校分校から名門大学院くらいまでのレベルで細分化されているが、高レベルの教育機関になればなるほど、教職員の中に、いわゆる「外に出せない幹部」が多いのも事実だ。
・その理由は超明白。現場が機能しなくなるから、そういう部署に沈めておけば良いわけだ。本当は賢い「ドアホ」なのだが、外に出せない事情があるから、「先生センセ大先生、大教授に1000点」「あら流石、先生の造詣は何とご立派な」などと、閑古鳥が鳴いた場末の飲み屋のホステスが、アホをほめそやすことで、真に受けてくれて何とか客足が途絶えないようなものだから、客も店も助かるのような構図となる。職業学校とは、そういうものだったりするのが常だ。
・面白いもので、そういう研究機関の「先生」は現場に目が向いていないことを本人は全く自覚していない。そもそも市民感覚が鈍った太りすぎの北朝鮮指導者のようなものだ。「マンセー」と涙を流して出会いを喜び、別れを惜しんで情を尽くせば、最高指導者が不機嫌な場面でロケットランチャーで撃たれたり、火炎放射器で灰になるまで焼かれずに済む。
・そういうアホな指導者は、あまりにも実務を知らないから、日々、全国で発生した事案に対する不出来な結果のあら探しと、本に書かれた事例をいかに多く取り入れるかによって、幹部の指揮能力が決まると「マジ」で思い込んでいる。極端な話「現場の経験値など不要」と講義で言い放つし、実際にそう思い込んで報告を聞いているから、ダメな報告をする部下や長年のキャリアや勘に頼った動きをする部下を極端に嫌う。
・ここまで書くと、鋭い諸氏はお分かりだと思う。そう、その理由は自分が「外に出してもらえない存在」だから。対外的には、そんな賢い人の中に、しかも幹部の中に第一線現場に出せない人なんておるのか。と思われるかも知れないが、むしろそういう人が多い。悪田が学んできた経験からも、特に、例えば「警部任用科」「教官養成科」「通信指令何とか」の上級幹部たちの中には、初任科生並みに実務経験を欠いた未成熟な大幹部が大勢いた。
・本来のスペックは偏差値70を超える立派な大学を出て、わが国屈指の超難関と呼ばれるほどの上級試験に合格した秀才を、たかが偏差値35程度の過疎地の高校を出ただけの、巡査から警察官を始めた野良犬が批判するのはおこがましい。だが、数多くの現場を渡り歩き、残飯を拾い食いして生きてきた経験を数多く重ねた野良犬だからこそ、これまでに、上司や先輩たちに怒られ、是正され、作法を叩き込まれながら、実務に携わって来ることが出来た。それが野良犬の知識や経験となり、戦うため身を守るためのアイテムとなって、これまで生き抜くことが出来た。
・標記の「参考報告」も同じ、その報告をする部下には注意した方が良いことを悪田に教えてくれたのは、現場実務に精通した生え抜きの雑種犬の幹部だ。同じ現象はマンション管理の世界でも同様に起こっている。
・管理業が客商売であることは周知のとおり、しかも、その仕事するうえで、管理会社には「善管注意義務」が求められる。真面目な性格の人ほど、細かいことが気になるから、細かく対処してくれることで、居住者の間に安心感が広がり「この会社に任せておけば間違いない」という意識が広がる。管理員さんも、よく報告してくれる。細かいことからどうでもいいことまで、教えてくれることは風通しが良い証拠で、実に有難い限りだ。
・しかし、その報告の頭文字に「参考までに」がついていると、やはり、つい身構えてしまうのは、長年の経験で身についた悪癖かも知れない。
・ただ、かつて、愛する奥様や、はたまた、若いころに失恋した恋人とのデートで、お相手から「何を食べたいの」と聞かれ、つい、悪気もなく「何でもいい」と答えた自分が、お相手を幻滅させてしまった失態を思い返せば、参考報告など、愛情たっぷりの部下からのラブコールだ。そう思わねばバチが当たるぞ、悪田権三よ。