・不動産業界のはしくれである悪田権三は、マンション管理会社のフロントマンと自社「㈱億山」の代表、それに障碍者施設を監理するNPO法人の監事という三足の「わらじ」を履かせてもらっていることは、このブログに何度か書いた。
・悪田の少ない社会経験の中で、多くを学ばせていただいた県警では、自己啓発活動として、昇任試験への取組みを推奨している。昇任試験に合格するということは、その階級に見合った責任感が与えられることだから、当然に職場内のステイタスも上がる。
・極端な例では、新人のころに厳しく指導していただいた先輩の上司になることもある。民間会社では、このあたりの上下の意識が薄いように感じるが、警察は自衛隊と同様に軍隊だ。常に縦の社会で構成されているから、上司の命令は絶対だ。
・唯一、上司の命令に従ってはいけないことがある。それは、その上司の指示が「明らかに間違った指示である場合」だ。明らかに間違った指示に従った場合、従った部下もペナルティを取られる。悪田は機動隊の経験はないが、上官の間違った号令に従うと、部下にも責任が及ぶから、部下はそっぽを向いて良い。むしろそれが正しい。本題に入る。
・不動産業界において、この秋から冬にかけての10~12月は試験シーズンだ。特に、業界の三大資格と呼ばれている「宅地建物取引士」「マンション管理士」「管理業務主任者」資格試験は、例年、10月の第三日曜日、11月の最終週の日曜日、12月の最初の週の日曜日に行われる。
・このうち、マンション管理士を除く二つは、いわゆる「業務独占資格」で、これを持っていてくれないと、重説が出来ない。マンション管理会社フロントマンの場合、管業を持っていないと、持っている人にお願いして、重説をやってもらいに来てもらわなければならない。
・別にたいした業務ではないのだが、お客さんからしてみれば、担当のフロントマンが管業を持っていないことが分かってしまうから、どことなく頼りなさを感じてしまうこともあるだろう。お客さんの中には、自己啓発で前記みっつの資格を持っている人もいるから、担当者が無資格であることを知れば、当然に「プロなのに管業すら持ってないのか」と思われてしまうのも、仕方のないことだ。
・だから、会社としても、特にマン管と管業の取得を推奨しているが、業界全体の中では、ハッパの掛け方か甘いような気もする。というか、そもそも、自分の仕事を進めるうえでマストの資格なのだから、持ってて当たり前、ないのはボーナス減額くらいの差をつけても良いのではないかと思う。
・では、仕事を進めるうえで資格を持つことは、どういう意味をなすのかを考えてみた。悪田が担当するあるマンションで、大規模修繕工事を目前に控えた、臨時総会で決議が通った案件がある。その前提となる理事会でのヒアリングの席で、ある理事役員さんから、現場代理人(候補)の男性社員に対し、こんな質問が出た。
・理事役員「〇〇さんはこの実務経験がどのくらいあるのですか」
・〇〇氏「8年です」
・〇〇氏は、年齢32歳の若者だと紹介されたが、実務経験8年というのは果たして長いのか短いかの判断に悩んでいる様子だ。
・そこで悪田は、次のように質問を続けた。
・悪田「今回、〇〇さんがやられる監督は常駐ですか、巡回ですか」
・〇〇氏「常駐です」
・悪田「〇〇さんは、直近時点で、年間に、トータルだいたいどのくらいの大規模工事の現場監督をやられていますか」
・〇〇氏「1億円に満たないくらいです」
・悪田「〇〇さんは施工管理技士といった資格をお持ちですか」
・〇〇氏「もっていません」
・悪田「〇〇さんの上司の方にお聞きします。修繕工事の時期が、今後、先送りとなった場合、このマンションの現場代理人が〇〇さん以外の方になることもありますか」
・上司「他の現場をやらせている場合は、他の者が代理人になることもあります」
・聞取りの後、悪田は、理事役員さんに対し「この現場代理人(候補)は非常に能力の高い方だと思います。通常、こちらの業界では、年間に2億円以上の現場対応をする人をエース級としています。年間1億円以上の現場対応をしている人であれば、いわゆる一人前の監督です。経験年数はあまり関係ありません。今回、工事業者さんが自信をもって〇〇さんを監督にと勧めてくれる理由は、この方の能力が高いことにほかなりません。よその現場に取られてしまう前に、まずこの方を確保する方法が組合にとってメリットがあると思います」と結んだ。
・この若者の現場代理人が有能な現場監督であることを理事役員さんに知らしめるための方法を、間接立証という形で行った一つの例だ。
・この面接において、結局は、悪田の意見が理事会の判断材料ひとつとなり、無事に内定をもらうことが出来た。
・どんな仕事でもそうだが、エース級の仕事をこなしている社員は資格を持っていて、なおかつ経験豊富である。次いで良いのが、経験豊富だが資格を持っていないパターン。いちばんダメなのが、資格も経験もないパターンだ。
・といった具合に、弊社「こころの通う管理」の経験豊富なフロントマンも、これから試験を迎えるに際し、乗り越えなければならない試練が待ち受けているが、最後の追い込みに全力を尽くし、無事、合格という栄冠を勝ち取って欲しいと願っている。フロントマンの仕事、マンション管理の仕事は管理業務主任者の資格を持っていることで光り輝く。
・一方で資格取得は単なるきっかけに過ぎない。資格を取得しただけで勉強を終わらせてしまうと、人はそこから伸びなくなるから、取得後もたゆまぬ努力が必要だと悪田は考える。
・弊社「こころの通う管理」のあるスタッフが、先程、書いた資格以外の勉強のため、試験前の2週間前から休暇を取得して勉強に打ち込むことを宣言したそうだ。
・合格したら、退職するのではないかと噂されている。噂の真意は誰も知らないが、果たして資格だけで食べて行けるほどの楽な資格が、この世の中にあるとは思えない。
・人にはそれぞれに物事の捉え方が違うから、あえて否定はしないが、そのスタッフの仕事ぶりを見ても、面倒な雑用はすべて他人に押し付け、自分は高い位置に立って指示を与えるだけのように窺える。
・本当に優秀な人は、自分より優秀な人を使うと言われるとおり、人の使い方は、巧緻を表すバロメーターだ。使われる側も、常に使う側の人間性を見て動きを決めている。
・資格や経験も大切ではあるが、何よりも大切なのは上に立つ者の人間性だと悪田は考える。