【前回の続きとなります】
・ あるマンションで、ご年配の単身でお暮しの方がおられた。
・ どういうお仕事をやられているかは分からないが、いわゆる「在宅勤務」をされていて、今期、理事役員に選出されたものの、多忙を理由に月に一度の理事会に出て来られない。
・ 悪田権三も実は一度だけしかお会いしたことがないのだが、第1回の、いわゆる「引継理事会」だけは出席された。実はそれすらも、本心は参加したくなかったそうであるが、そこで役員の選出が行われる中で、理事長にだけは選出されたくないという思いがあったそうだ。
・ 気持ちは分からないでもない。人によってたは、理事長に選出されたものの、一度も出席しないまま、1年を通す例もある。理事長は区分所有法上の概念では「管理者」としての地位を与えられており、通常、規約の定めにおいて管理組合を代表し、その業務を統括する権限を与えられている。
・ 正直、理事長の責任や負担は軽くはないので、それだけはやりたくないという気持ちが分からないでもない。
・ しかし、管理会社のフロントマンにしてみれば、理事長や理事会が安心して業務を遂行出来るためのサポートを行っており、このあたりは、ある種の信頼関係によって成り立っている。理事会において判断に迷う案件があった際に、管理のプロとして、これを支えているのが管理会社であり、担当フロントマンなのであるから、日々、起こり得るたいていの案件に対応出来るだけの事態対処能力は有している。
・ そして、この期の場合、2時間以上に及ぶ選出方法の議論の末、結局、役職の決定方法は抽選でということになった。ただ、実際には、当時、担当フロントマンだった悪田が「抽選で選出された場合には、辞退することは出来ないことを了承していただけますようお願いしますね」と念を押したことに対し「それでも私には出来ない、私を外して欲しい」の堂々巡りだった。
・ もちろん対案はない。対案がない中で、立候補がないから、抽選しかない。それでも私はやりたくないが2時間以上続いた。結局、抽選によって決することとなり、この方以外の方が選出され、理事役員が決定した。決した後、この方は「私が理事長に選ばれなくて良かった、コロナなので、次回から私は来ません」と、きっぱりと宣言され会場を後にした。
・ ところがである。この方は、良く私的なことでアフターサービスの担当者を呼びつける常習者であることを後で知った。お部屋内のことでの依頼であれば、本来、有償対応となるが、照明器具の不具合といったもの、電球交換に関してまで、アフターサービスの担当者を呼びつけ、無償で交換させようとするらしい。
・ きっぱり有償対応となると告げると「じゃあ要らない」と断るそうだが、その後も、何かにつけ担当者を呼びつけ、無償で対応させようとするのだそうだ。
・ 「管理会社はタダで何でもやるもの」との古い考えが定着しているのか、いわゆる常習的確信犯だそうだ。
・ ある日、その方が当事者となる近隣トラブルが発生した。
・ 悪田あてに、電話があり、要件を聞くと「隣人から騒音に関して苦情を言われていて、直接、苦情を言うのを止めるよう言ってほしい」というものだった。
・ 聞くと、この方、夜中の3時ころ起床し、ゴミを出した後、玄関周りの清掃をするのが日課だそうだが、周囲に配慮することなく、大きな音を立てるため、就寝中のお隣さんから「時間を考えて欲しい」と苦情を言われたそうだ。
・ 人には人それぞれの生活スタイルがあるから、夜中の3時に起きて行動しようと、清掃する際に多少の音が出ようと、それはそれである程度仕方のないことだ。一方で、それが迷惑だからやめてもらいたい。あるいは、多少は時間を考慮して欲しいという意見もごもっともだ。
・ 本来、管理会社は、このような騒音問題に関しては、関与しないことが原則だ。そもそも当事者の問題であるからだ。
・ しかしながらである。過去に何度も説明したとおり、こころの通う管理会社は、理不尽を受容することを本来業務としている。
・ 悪田は、騒音問題を当事者の問題として放置したうえで、トラブルがさらに発展した場合を想定し、最低限の対応だけはと考えた。
・ そのうえで、騒音を迷惑と訴えている相手方が賃借人さんであったため、その管理不動産会社の担当者に事案の概要を説明した。すると、不動産会社の対応は、やはり「騒音問題は当事者どおしの問題だから、当事者間で解決して欲しい、管理不動産会社では対処しない」との回答だった。当然である。
・ そして、悪田は賃借人さんと連絡を取ると、深夜・早朝からの清掃に伴う騒音で眠れないとの窮状を訴えた。「せめて6時とかの時間であれば、容認出来るが、夜中の3時、4時から枕元の近くでガタガタと騒音を出されたのではたまったものでない、多少なりとも時間を考慮して欲しい」とお願いされた。
・ 悪田は、窮状を訴えられている賃借人さんに対し、同様に「騒音問題はそもそも当事者間の問題であること、そもそも管理会社が立ち入る案件ではないこと。ただし、双方でやりあうことで争いの種となり、事案がより深刻になるのを避けるために、今回、特別に相手の訴えている内容を管理会社が中に入ってお伝えする」ということを告げたところ、充分に納得され感謝された。
【次回に続きます】