きょうだい間は根が深い

・悪田権三が宅建業者だった当時、商業地に所在した456㎡の土地の競売案件に携わったことがあった。任意売却を目指したが、残念ながら競売にて落札されてしまった。売却価格は、予想どおりだった。

・三人のきょうだいがいて、親が残した土地に関する争いがあり、2人対1人の構図となった形で、ご縁があり、悪田は1人の側から相談を受けて任意売却のために奔走したが、結果的には競売になってしまった。裁判所の差押え案件を飛び込み営業でトライした割りには、まあまあ良いところまで到達出来たが、肝心要の当事者が我を通した結果がこうなったものだから仕方ない。

・1人の当事者はなるべく高く売却したいと言う。任意売却するなら8,500万円だと譲らない。レインズの成約事例をいくら示しても8,500万円は現実的な価格ではない。競売の基準価格は約4,500万円だったと記憶している。とにかくそのような値段で落札されたのでは困ると悪田に文句を言う。ひとたび店に来られると4時間5時間居座られるのは当たり前、悪田も暇ではなかったので物凄く迷惑だったが本人はそんなことはお構いなし。しかも、そもそも兄弟間の遺産相続話がこじれ、2人の側は弁護士に委任し、1人とは直接は取り合わない。過去には1人が無理やり押しかけて、警察沙汰となってしまったこともある。

・悪田は取り急ぎ、同業者との間で情報を共有し、任意売却を前提に買主を探索してみた。どんなに頑張れてもせいぜい6,000万円、それ以上を望むなら、むしろ競売の方が高く落札されるだろうとのこと、結果、確か6,200万円くらいの落札価格だったと記憶している。まさに予想どおりの結果だった。

・売主が高値での売却を望む気持ちは理解できる。しかし、現実を考えればプロである業者が、それを無理だと判断することには根拠がある。売りやすさを考えればなおさらのこと。特に競売の場合、開始されてからのスケジュールがタイトで差押えが入ってから落札されるまでの間に、任意売却で買主を探索するのは容易ではない。

・当事者間において、多少なりとも「まぁ仕方ないか」という意識があれば、そもそも裁判沙汰になる前に活路が見いだせるが、我を通すと、このような「形式的競売」で決着してしまう。

・最近、悪田は休みがとれず、ここ数日、かなり疲れていた。今日は絶対に休むと昨日から心に決めていたので、夕べは目覚ましをセットせずに休んだ。しかし、早朝より、その知人からの電話がひっきりなし、最初はあえて出ないで放置した。それでもジャンジャン電話がかかって来るから仕方なく出た。要件は前にも相談を受けていた形式的競売の話であった。もちろん、上記の案件とは別案件だが、とっかかりの話の流れは奇妙なくらい似ている。

・悪田は知人に、3~4カ月前にもその流れを分かりやすく、丁寧に教えてあげた。だが、まだ争族が継続しているようであったからそれなりに根の深い話なのだと理解していた。知人は悪田の客ではないが、昔、世話になった恩人だ。だから今後の流れや、展開を予想してアドバイスしてやった。きょうだい間の喧嘩別れは簡単だが、そのようなことで禍根を残すくらいなら、良い着地を選択した方が賢明だろうと考えた。

・悪田はどちら側の味方でもないし、媒介業者でもない。ただ、ここでの説明を分かりやすくするために、悪田の相談相手を「こちら側」と言い、一方当事者を「相手方」といって説明する。

・この事例において、争族の当事者は二人で双方に相談窓口あるいは訴訟代理人弁護士がついている。対象不動産の業者買取価格は約2,000万円で、相手方が鑑定評価でつけた価格は約2,500万円、相手方はこちら側に約3,200万円での買取りを要求しているそうだ。3,200万円の根拠は机上査定、大手の不動産仲介業者が出したエンド価格だと判断した。こちら側も、既に、ある別な宅建業者に相談済で、業者からは買付証明書を貰っているそうだ。

・この事例において競売になったら、安く買いたたかれてしまうのではないかと不安なのだそうだが、その心配はないと断言しておいた。競売になれば、たぶんエンド価格に近い金額で売却される。あるいはもっと高く売れる可能性もあるから、そこから手続き費用や税金等を差し引いて、仲良く折半して、今生の別れとばかりに縁を切れば良いだけのことだ。

・通常、宅建業者の買取価格は、エンド価格の半値から6掛けだ。横浜市内の某駅徒歩10分の好立地だそうだがら、掛け目を仮に6掛けとすると、2,000万円を0.6で割り戻してやれば33,333,333円となる。鑑定価格が2,500万円で相手方当事者に対し3,200万円での買取りを要求していることから推測すると、エンド価格は3,200~3,400万円であろう。建物は古いが土地は40坪くらいだというから、業者は再販には自信があるのだろう。悪田は机上査定すらもしていないが、話を聞いただけで業者買取りだとかなりの利益が出せそうだ。一方、競売でもおそらく、3,200万円、あるいはもっと高値がつくかも知れないと推測した。

・駅徒歩10分の好立地だとすると、場合によっては2区画に分割出来る可能性もある。登録免許税、不動産取得税、取り壊し費用、造成費用、建築費用分を計算して再販すると、そこそこの利益を出せる可能性がある。

・悪田の知人がその気になれば、こちらで仲を取り持って任意売却に向けた交渉を進めるという方法も充分にありだ。ただし、一方当事者側に「いくらで売れる」「自分の取り分はいくらだ」「安く買い叩かれるのはまっぴらだ」の気持ちが強すぎると、なかなか話がまとまらない。

・今後、手続きが進行してくると段々と選択肢が狭まり、開札までの間、不安な日々を過ごすことにもなりかねない。

・悪田は知人に「先方が言うように3,200万円で買ってあげて半分、相手にあげればいいじゃないですか、競売だともっと高く売れるかも知れませんから、いずれもっと高い値段で売却できるかもしれないし、それを考えたら得じゃないですか」と伝えた。しかし、悪田の進言には疑念を抱いているようだった。悪田に言わせれば、落札価格など、全ては結果論に過ぎない。業者に2,000万円で売却しようとても相手方当事者が認めないだろうから、ここは、どちらかが折れるか、または折衷案を出して双方痛み分けとするのが、一番無難な選択肢だ。

・そもそも、それが出来ないからこその競売になりそうな案件だ。ただ、宅建業者にせよ、弁護士にせよ、他人を動かせば費用がかかる。彼らはそれで飯を食っているのだから、只では動いてくれないことを知るべきだ。

・何でも自分に都合よく利を図りたいのなら、相手に頭を下げて和解するのが一番だと悪田は考える。もっとも、人が疲れて休んでいる事情など考慮せずに早朝からしきりに電話をかけて、自分の知りたい情報をタダで知りたいと思い悪田を道具に使うことしか考えないような人には、それを期待しても、穏便に諭しても無駄だと、悪田は経験から学んで知っている。

・次回もまた、同じ話を蒸し返すなら、知人からの電話を着信拒否にしようかとも考えた。

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