何気ない報告がラブコールだったりもする

・あるマンションの管理員から、多くの居住者が借りている月極め駐車場が、2年後に廃止予定との報告があった。

・月額利用料が2,000円違うことが多くが借りている理由だそうだ。おかげで、マンションの機械式駐車場には長い間、空きがあり、管理組合にとっては悩みの種だった。

・機械式駐車場の長期修繕計画では、だいたい25年目あたりに一斉交換時期を迎える。相場は形状・構造にもよるが、単純昇降式で、だいたい1パレット100万円といわれている。そのマンションでは、約30区画があり、前記の計画では25年目に、ざっくり3,000万円の更新費用がかかる計算となる。

・また、これも、あくまでもざっくりとした話だが、空きのリスクととして、利用状況として常時約4分の1が空いているから8台分、月額利用料が1台あたり8,000円で64,000円、年間で768,000円、15年で11,520,000円という計算となる。

・15年で11,520,000円という金額は、大規模修繕工事のタイミングを15年周期と想定した場合の年月で、すなわち、機械式駐車場が満車で15年間稼働していれば、そこそこの修繕工事が行えるということになるわけだ。

・悪田権三は管理員から、この報告を耳にした時「単なる個人の事情」と、さして大きな問題と捉えてはいなかった。その近所の駐車場は月額利用料が6,000円でマンションの駐車場よりも、2,000円割安だ。路面が砂利敷きで雨ざらしなのが難点ではあるものの、機械式駐車場と違い、車の出し入れが楽なのが利点だから、人気があったのだろう。

・ところが、この報告があって、ほどなく開催された定例の理事会で、ある理事役員が口火を切った。「皆さん、あそこの〇〇駐車場が2年後になくなることをご存じか」知っているという人、知らないという人、非常に困るという人、まぁ、さほど影響はない人など様々だ。

・その中で、たぶん冗談であろうが、ある理事役員が、砂利敷きの駐車場がなくなると困ると話していた別の理事役員を捕まえてこう話した。

・「今は駐車場の上段が空いているから、〇〇さん、先に申し込んでみたらどうか」と提案した理事役員がいた。これは、物凄く良くない話だ。これが後でバレたら、理事役員全員が組合員から吊るしあげられる。悪田はもちろん「それは後でバレたらたいへんなことになるから絶対にやめた方がいい」と進言した。

・とかく、駐車場の抽選は何かと争いの種となる。当選した人はいいが、選から漏れてしまった人は、自力で駐車場を探さねばならない。近くに手頃な値段で見つかれば良いのだが、そうならないことがある。ましてや、理事役員の立場にある者が不公平な取り決めで自分勝手に良い場所を先に抑えたなどの話が広がったら、組合員全員に猛反発され突き上げられ、今後の運営に支障をきたすのは必至だ。

・面白いことにこのマンションの機械式駐車場は、単純昇降式の3段であるが、皆、一律の価格設定となっている。利便性を考えれば、当然に上段の使い勝手が良いのは当たり前なのに、中段・下段ともに一律料金設定で誰一人、文句を言わない。それだけ、人気のないというか、あまり関心がなかったのだと思われる。

・だが、さっそく、理事会終了後、駐車場の空き状況について、居住者から問い合わせがあった。当初は何のことはないと考えていた悪田も、あの理事役員さんの反響を見て、今後、殺到することを予想した。そこで、空き区画を募集し、場合によっては、公平に抽選とすると記載した投函と掲示を全戸に配布した。今のところ、まだまだ締切が先なので落ち着いているが、そのうち、殺到するのではないかと考えている。今後の利便性を考えれば、上段区画と下段区画との料金差を設けるとか、駐車場利用料の半額を特別会計に繰入れるなどの工夫も必要なのかも知れない。

・何はともあれ、取り急ぎの管理員からの報告で救われた。もしも、放置して、次から次へと申込順で受けていたら、後になって、「不公平だ」とか「危機意識がない」だとか、とかく管理会社が非難に晒されるきっかけとなっていたかも知れない。

・管理員からの何気ない報告が、実はラブコールだったかのように感じられた一幕だった。

 

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