理事長に深々と頭を下げられては

・悪田権三は、不動産で困っている人を助けたいという理念で不動産業を立ち上げたという話を以前にした。残念ながら、その理念はまだ道半ばである。

・忘れられない相談者がいた。開業初日の出来事だ。ある年配の女性が来店され、悪田に土地の売却の相談をされた。栃木県と山梨県に所有している土地を処分(売りたい)したいという相談だった。証書は探せば見つかると思うが、今すぐどこにあるかは分からない。

・終戦直後のモノのない時代に、食べるものに困り果て、とりあえず土地さえあれば、野菜を植え育て食いつなぐことが出来る。そういう触れ込みで購入したそうだ。今で言う原野商法だ。もう何十年も行ってないので、場所の特定も難しいようだ。

・そろそろ、生い先の長くないと感じたそうだ、ご自身が亡くなった後に、残された子や孫の間でトラブルの元になっても困るので、今のうちに何とかしておきたい。そういう相談だった。悪田は相談者の身上に関するお話を窺い、この相談が難儀であることを理解した。

・しかし、何とか期待に応えてあげたい。いろいろと思案したが、ご本人の同意だけで手続きを進めることは、かえってトラブルになるだろうと結論付けた。そこで、土地の売却に賛意を得られる親族がいるかどうか。そう考えて話を掘り下げたが、個別事情があり結果として難しいという結論になった。それ以上に進展することはなかった。

・帰りがけに、女性は悪田に「何時間も無駄な時間を取らせて申し訳ないので受け取って欲しい」と五千円札を手渡したが、悪田は丁重にお断りした。店の前で女性と「受け取れ」「要らない」のおしくらまんじゅうがあつた後、女性は諦めて帰られた。

・翌日、その女性が再びご来店された。悪田か大好きな酒瓶を二本抱えてタクシーに乗って来店された。当時、悪田の店には警察官在職中にいただいた賞状を飾っていたので、女性は感心し、そして満面の笑みを浮かべ帰って行かれた。「また来るね」と言って帰られたが、二度と来店されることはなかった。

・悪田もその後が気になり、幾度かお便りを差し上げたり、年賀状を送ったりもしたが、二度と来店することはなかった。

・株式会社億山に来店された初のお客様であった。あの年配の女性は、今もお元気で過ごしておられるだろうか。

・本題に入る。

・あるマンションで、前々から、ある深刻な問題を抱えている。

・今期理事会に申し送られ、審議を進めているが、理事役員の出席がイマイチだ。趣旨を理解していただきたく、毎回、開催通知にて参加をお願いしているが、状況はほぼ変わらない。

・実は、どこのマンションでも同様な悩みを抱えている。

・一方で、その逆もあってある特定の人物が常に理事長を務め、理事会運営を取り仕切っていることもある。無関心に比べれば、意識が高い方が組合員にいてくれた方が、全体としての利益に繋がる。

・理事会の開催要件は、総会のそれと酷似している。すなわち、理事長が招集し、半数以上の理事役員が出席、議決は過半数というルールが国土交通省で示したマンション標準規約、同コメントに刻まれている。

・同コメントによれば、原則として①理事役員本人が出席、②欠席の場合は議決権行使書の提出が必要。これを反対解釈すれば、委任出席は認めていない。

・問題のない議案や報告事項だけであれば、理事長の判断で開催しているのが実態ではなかろうか。配偶者の代理出席もしかりだ。しかし、臨時総会に上程する議案の場合となると、そうはいかない。そもそも議案上程の屋台骨となる理事会が成立要件を満たしていないとなると、後でそしりを受けるのは避けたいところだ。

・そのため、理事会開始時刻となった後、参加されていない理事役員のお部屋のチャイムを鳴らしたところ、一軒の理事役員さんが在宅されていた。

・悪田「本日、理事会なのですが、ご参加をお願いしたいのですが」

・A理事「無理だね」

・悪田「実は理事会が成立せず、重要案件の審議に支障が出ているのですが」

・A理事「出れねぇって言ってんだろ。だいたい急に言うんじゃねぇよ、この野郎」

・悪田「それでも二週間以上前にお知らせしているのですが、それでは遅いでしょうか」

・A理事「そんなこと知るか、欠席だって紙を提出してんだろ」

・悪田「分かりました。それでは次回、どうぞよろしくお願い致します」

・このマンションは、理事会に出席した理事役員に一回あたりの報酬を支払う取決めか細則で定められている。それがすべての理事役員に周知されているかどうかは分からないが、そもそも、理事会への参加は自分たちのためのことだ。

・管理会社がお手伝いをしてはいるが、本来、自分たちが主体となって進めて行かなければならない大事な集会だ。単に出る気がないのか、あるいは仕事が忙しいのか個別の事情は預り知らないが、重要案件の審議が出来ないことで困るのは組合員自身だ。

・このあたりの温度差、あるいは意識の違いはマンションによって様々だが、例えばこのマンションのように、参加を促すために報酬制度を設けても、あるいは逆に不参加藻者にペナルティの名目で協力金(罰金)課しても、結果は同じだ。無関心の理事役員からの協力を得ることは困難、それでも参加を促すと逆切れされる。

・ご参加いただいた理事役員さんに、このあたりの事情を説明しても意味はないが、次回、臨時総会前の理事会を開催する前提で、再び参加者が集まらなかった場合を事前に想定しておく必要性を実感した。

・集会終了後、ご年配の理事長から「いろいろとご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願い致します」と深々と頭を下げられた。

 

 

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