体調の悪い時は言ってくだされ

・悪田権三は、ある知り合いから「〇〇さんが一週間前から連絡がつかない」とのご相談をいただいていた。

・〇〇さんは、年齢60歳前後の初老の男性で、人懐っこい性格で地元の人たちから可愛がられている。

・訳があって、ある通所者施設に通い、そこのスタッフや利用者にも、よく、おせんべいや飴玉などのお菓子をくれる。

・本人のわずかなお小遣いで買ったものもあれば「おすそ分け」であることも多い。

・〇〇さんが「はいこれあげる」と言ってくれるものの中には相当数の「おすそ分け」が含まれていて「〇〇さん、それどうしたの?」と尋ねると「知らないおばちゃんから貰った」と嬉しそうに答えてくれる。正直、見ず知らずの人からもらった食べ物を「おすそ分け」でいただくというのは、あまり気持ちが良くはないが、人の「気持ち」を無碍にも出来ないので、いただいて食べることにしている。

・その〇〇さんが、約一週間前から連絡がつかないということを聞いて周囲に心配が広がった。通所施設にも通っていないとのことだった。

・悪田自身も良く知っている人であったため、気になっていたところ「やはり心配なのでアパートを見に行った方が良いのではないか」となり、通所施設の責任者さんが担当ケースワーカーさんに通報し、一緒に様子を見に行くことになったそうだ。

・年齢的にも基礎疾患を抱えていることが窺え、また、新型コロナウイルスやインフルエンザの同時流行の季節でもあり、最悪の事態を考えた場合、自宅を尋ねた人が「第一発見者」になってしまう可能性もありと覚悟し、アパートを見に行くこととなったようだ。

・悪田に当所、相談してくれたその方も通所施設の責任者さんも「一緒に来て欲しい」とは口にしなかったが、悪田が元警察官であることを当然に知っていたし、〇〇さんとも少なからず懇意にさせていただいた関係上、悪田も付き添うこととなった。

・出発した場所がそれぞれ違っていたため、悪田が〇〇さんのご自宅に到着した時には、既に通所施設の責任者さんと、ケースワーカーさんが到着していた。驚いたことにアパートの玄関先で〇〇さんと話をしているではないか。

・到着した悪田が、開口一番「なんだ、死体を搬送するのに人手がいるって言われたから来たのに、大丈夫だったようですね」と声をかけると〇〇さんは申し訳なさそうに笑みを浮かべていた。逆に担当ケースワーカーさんは「誰だこいつ」のような驚いた表情を浮かべていた。

・すかさず、通所施設の責任者さんが、ケースワーカーさんに「この人、元警察官なんです。来年には違う事業所で施設長をやる予定になっていますのでよろしくお願いします」と丁寧に紹介してくれた。これを聞いて担当ケースワーカーさんも笑顔を浮かべられた。

・聞くと、〇〇さんは、約一週間前から発熱があり、風邪をひいてしまったようで、周囲への配慮から、意識して通所施設に行くことを見合わせていたようだ。

・〇〇さんは携帯電話を持っておらず、ここ一週間の食事は、近所に住むご親戚が差し入れてくれたようだ。

・周囲もいろいろと思案を巡らせ、そのうえで心配して来てみることにしたが、これはこれで良い結果となった。

・普段、何の違和感もなく、そこにいる人が、突如、いなくなってしまうと不安が広がってしまう。それは他人であっても同じだ。「何かあったんじゃないか」とか「もしかしたら孤独死しちゃってるのではないか」という不安はすさまじい勢いでマイナスの憶測が広がっていく。

・現に、通所施設の利用者さんの中には、悲観的に「普段からもっと優しく接してあげれば良かった」と後悔していた人もいたらしい。だからこそ、本当の意味で無事を知って安心した。これもすべて〇〇さんに人徳があってのことと捉えると合点がいく。

・結果、笑い話で済んだ些細な出来事が、実に「ほっ」とさせられた一日だった。

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