昔、悪田が一年がかりでやらせていただいた詐欺事件で被疑者が述べていたことが今でも印象深い。
総額で約4億近い被害額の事件だった。
被疑者は大手電機メーカーに勤める主任技師で、試作費予算をくすねる手口で犯行を繰り返していた。
大手の会社と取引する場合、通常、商社を介在させなければならない。
被疑者は商社の担当者に嘘を言い、実際には部品や工具が納入された事実がないのに、これがあるように装って架空発注を繰り返していた。
この試作費予算だが、近い将来において量産化される予定の製品を世に出す前の製造工程に費やされる費用で、企業にとっては主力と位置づけられる。
電機メーカーの凄いところは、答えの見えない仕事に常に向き合いつつ、決められた期間内に必ず答えを出すことにある。
どうやったら成功するか誰も分からないなかで試行錯誤を繰り返し必ず答えを出すということが果たしてあり得るのか。
必ずしも取り組んだプロジェクトが成功するとは限らないであろうと考えた悪田はそのように尋ねたところ、被疑者に鼻で笑われた。
「結果が出ないということはプロジェクトが失敗ということでしょう。だとしたらそこに費やした莫大な予算はどうなるんですか」
つまり、民間企業は成功しないプロジェクトに予算を費やすことはないということだ。
当時、警察にいた悪田は、大いに驚いたものだ。
現在、民間会社に勤める悪田は、弊社心の通う管理の主力業務は、いわゆる「リプレイス」を取りに行くことであることを幹部から聞かされた。
リプレイスはたいへんだ。
そもそも管理会社を変えるというのはたいへんな労力がいる。
管理費が高い、サービスが著しく劣るなど、管理会社に対する不満が数々あるなかで、管理会社を変更することで得られるメリットを顧客は求めている。
答えを出さなければならない。今以上のサービスを提供しなければならない。しかも、管理会社の変更に総意を得ているわけではないことがあるから、変更して良かったと思われるための商材を提供するためには、主力を投入しなければならない。
こんな話をしたが、幹部いわく、たいへんではあるが、そこにはやることの意義が必ずあるという。
大いに興味深い話だった。
人は出口の見えない暗闇に置かれ行き場を失うと心身に不調を来すと言われる。
だとすればそこには強い目的意識がないと務まらない。
困難な先に見えるものとは達成感であろう。成功体験を重ねた苦労の先に良いチームが形成され、ひいては良い会社が作られるという。是非、その行く末を見届けてみたいと感じた。