困った時に頼りになる組合会計データ

・あるマンションで、理事役員の選任に関して意見をいだいた。

・このマンションでは長い間、輪番制で次の期の理事役員を選任していたが、厳格にこの方法を用いると、経験回数において不公平が生じてしまう。

・例えば、来期において理事役員が回って来るタイミングで売却されてしまう、あるいは賃貸となって、オーナーが、いわゆる「別住」となってしまうと、そこから理事役員が回ってこなくなる。

・すると、どうしても定期的に理事役員をやる人とやらない人との間に格差が生じて不公平感が広がってしまう。国土交通省が定めた、最新の標準管理規約では、別住オーナーを理事役員から除外するという規定はない。そのため、理事役員の選任に関しては、別住を除外する必要はない。

・しかし、実態として、現に居住していない区分所有者を理事役員に選任しても「理事会への出席が期待出来ない」「日々の生活上の問題に対する意識が薄い」など選任したところで、理事会活動に協力が得られにくいだろうという意識を持たれてしまう。

・これらを踏まえ、いつからか、本来の輪番制に加え、新たな区分所有者を優先的に理事役員に就任してもらう方法が採用され、数年間、この運用がなされていた。特に不満の声はなかったが、直近において同様の新区分所有者が入居したので、本人に事前の同意を得て、今般、新たに理事役員に就任をお願いした。

・さらに、これに合わせて経験回数を俯瞰してみたところ、全体的に大きくばらつきが生じていることが分かった。このため、これまでの輪番制に加え、経験回数を加味した選出方法を新たに加えようとしたところ、不満の声が上がった。

・だいたいこういう不満は、今までとやり方が違うということに対するものである。ただ、厳格にこれまでの選出方法を見てみると、必ずしも輪番制とはなっていなかった時期がある。ある期によって運用方法がバラバラなのである。

・しかし、今期通常総会までに、この方法について深く議論している時間もないため、来期の選任方法は、原案どおりとして、今後、検討を重ねるという方法で一旦は落ち着いた。さて、問題は今後、どのような方法を提案して行くかだ。

・なるべく、多くの区分所有者から不満の出ない方法としたい。よく考える選択肢としては「一旦、シャッフルする」「経験回数で足並みを揃える」「元通りの輪番制に戻す」といったやり方だ。

・提案の大原則として、公平性を第一に考えた場合、一旦、シャツフルした場合、これまでに多くの回数をやられて来た方から不満の声が上がりそうだ。

・また、厳格に経験回数だけで見た場合、新しく入居された区分所有者は、足並みを揃えるために、連続で理事役員をやらなければならない。一方、厳格に輪番制を用いた場合、合理的であるように見えるが、やはり、公平性という点での問題がありそうだ。

・そこで、上司に相談したところ「経験率」という方法を教わった。悪田も初めて知っった言葉だ。これは、入居時期が違う人が大勢いる中で、その入居期間に何回、理事役員をやったかを割り出し、数値のうえでパーセンテージ化し、経験率の少ない人から順番に充てるという方法である。

・「これは、超面倒くさそうだ」

・具体的に、どうやって誰がどの時期に居住開始したのかを調べるかというと、すべて手作業だという。これは正直、かなり手間のかかる作業だ。しかも、率を出すということは、データ上で明確に数値で表すという方法、悪田には表計算ソフトをそこまで巧みに操作できる能力はない。

・正直、この方法はやめようと考えた。ただでさえ忙しいのに、さらに余計な仕事が増えるだけだと考えた。

・そうしたところ、別な上司から「私が前に作成した表がありますよ」と声をかけていただいた。これを見ると入居時期と、どの期に理事役員をやったかが分かれば、簡単に経験率が出せるよう、計算式が入っている。だが、個別に入居時期を調べるのが厄介だ。

・すると同じ上司から「組合会計ソフト」を見れば、どの時期に入居したのか、どの時期に口座振替を開始したのか、正確に残っているとのことである。早速、調べてもらったところ、一目瞭然で分かる。実に素晴らしいデータだ。

・そもそも、組合会計ソフトのデータはこのようなために利用されるものではないらしい。それはそうだ。ただ、理事役員の経験回数を含めたデータ蓄積が、最近になって導入され、少しずつ整備されてきたものに対し、ソフトのデータは毎月の支払い状況を正確に記録されるために前々から用いられてきたものだそうだ。

・ソフトのデータを管理する社員は、理事会運営上の問題点や、理事役員の選任に関する組合員からの不満の声を聞く立ち位置にないから、そういう観点にはない。しかし、フロントマンと組合会計の経験値を持っていると、必要とする情報が欲しい時に、どこに相談すればそういう情報が手に入るかを理解している。

・これは物凄い強みになると感じた。さっそく、いただいたデータを入力し経験率を計算してみたところ、明確に来期の理事役員の選任候補が出された。もちろん、経験回数もだ。

・これを作った上司は、やはり、かつてあるマンションにおいて、理事役員の選出に関する不公平感が解消されないのは「管理会社の手抜き」だとの不満の声を受け、奮起したのだそうだ。

・そして、経験率を導入する方法を提案して、審議した結果、誰からも不満の声が出なくなり、そのマンションでは、以来、理事役員の選任をこのような方法にしているとのことである。

・大いに勉強になった。

・今後、理事役員の選任に関する審議をお願いするうえで、ここまでやったことを知ってもらえば、少なくとも、管理会社は「何もせず手を抜いている」という不満の声は出まい。

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