漏水原因調査は鑑識眼をもって

・悪田権三が住んでいるマンションに、管理会社から「火災保険加入のお願い」と題する投函があった。

・中身は「専有部での漏水事故が多発していて、漏水調査と判明後の復旧工事をやっている」前提で、多くは共用部火災保険の「個人賠償特約(個賠)」を利用して費用負担している。が、「契約期間満了後に、保険会社にて同一条件での更新を認めてくれず、値上がりとなるケースが多発している。だから可能な範囲内で各居住者が個人で加入している個賠で対応してほしい」という案内だった。

・マンション管理業の端くれにあって、一応、これでも「プロ」を名乗る悪田権三に言わせると、この管理会社は抜け目なく、良いアイディアを考え出したものだと舌を巻いた。とはいえ、手法としては、決して真新しいものではなく、従前より行われていた。システムの概略としてはこうだ。細かくは保険会社の設定によって異なるのだが、イメージをもっていただくために、あえて簡素化した。

・仮に共用部火災保険の満期日を、本日、2021年8月6日とすると、保険会社で更新査定するための事故カウント期間は2021年2月6日から2019年(保険会社によっては「2020年」)2月6日まで。この間に、保険金の「支払い」があると事故カウントされる。ここで注意したいのは「請求」ではなくて「支払い」である。査定期間を満了日半年前から「一年」あるとは「二年」としているのは、保険会社によって異なるが、支払われた額は関係なく、あくまでも件数だ。

・この間に、事故カウントが一件でもあると、実に不幸ではあるものの、呆れてしまう気持ちを逆に表す意味で「超ウケる」くらい、保険料が跳ね上がる。二件とか三件とかになると、同一条件での更新を断られることも珍しくない。断られたらどうするか。入らないという選択肢はまずない(そのための保険)から、①受忍(提示された見積金額での更新を)する。②保険会社を変える。③特約を見直す。④賠償額を下げる。といった選択となる。

・世の中、うまく出来ているもんで、保険会社を変更すれば、前の契約内容や保険金の支払い状況など他の会社には分かるまい。と考えるかも知れないが、このあたりは、面白いように筒抜けになっている。なぜか。それは保険会社の間で情報共有しているから。言い方を変えれば、ヤミ金は奴ら独自のネットワークを持っている。暴力のデカはヤクザの味方(ではない人もいる)。少年係の捜査員は、少年を食い物にして「ウリ」のネタを取っている。公安のデカは日本共産党とトモダチになることが出来ないと仕事が進まない。裁判官・弁護士・検事(特任検事を除く)は法秩序を維持するうえで、思考的価値観は共通している。といった連鎖的括りで、実にシステマチックになっているなぁと感じるのとある種同じだ。

・個賠とか「施設賠償」は特約であるが、前述のとおり、更新を認めてもらうのと引き換えに、保険会社から、それぞれを外してくれることを条件提示されることも珍しくない。理由は簡単、そういった事故申請が多いからだ。

・漏水の場合、いわゆる「自然災害による水害」が原因となる事象は適用外となることが多い。調査で保険を使用することも不可能ではないのだが、実は調査した結果から、原因が判然としないこともよく起こりえる。原因が特定出来ないと調査以外の保険は使いようがないから、一生懸命に調べる訳だが、これには熟練の技と卓越したセンスが求められるので、なかなか高度な技術が必要だ。

・よく大規模修繕業者を選定する場合の着眼点で「漏水原因を調査出来るスキルはあるか」「漏水を再発させないための高い技術力を持っているか」という視点が欠かせないる。プラスして、その業者にそのスキルがあることを管理会社のフロントはどのように見抜くか。このあたりがエース級のフロントマンと二流・三流のフロントマンとの違いだと悪田権三は考える。

・熟練の鑑識課員と同じだと思う。能力の高い鑑識は寡黙で仕事に一生懸命だ。

・刑事ドラマの世界では、臨場したデカが「おい、鑑識を呼べ」などとほざくが、そんなことは実務の世界では絶対にあり得ない。歩行帯も頭巾も手袋も足元の処置もしていないデカがズケズケと現場を踏み荒らしたら、それこそ警部だろうが、警視だろうが、それこそ本部長だろうが、おかまいなしに雷を落とす。それが鑑識だ。彼らには、現場は二度と取り返しがつかないという危機意識と縁の下の力持ちが現場を支えているという、鑑識としての矜持がある。

・悪田権三マンションのように、各区分所有者が階下漏水を個賠で対応すれば、事故カウントは関係なくなる。

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