鉄は熱いうちに打て

・悪田権三が警察官として犯罪捜査に従事させていただいた経験の中で、常にこの意識を持って行動し、今も、表題の言葉を実践してる(つもりだ)。

・警部補当時、検察庁で研修を受けさせていただく機会があり、担当検事について検察実務を学ぶ機会を与えていただいた。当時はわずか二週間の短期であったが、警察から送致されてきた事件が配点され、被疑者を取調べ、担当警察署の捜査幹部と打ち合わせ、証拠を吟味し、処分を決定し、部長検事に決裁を仰ぐという一連の捜査指揮を経験させていただいた。

・警察には、いわゆる「第一次捜査権」があると言われている。刑事訴訟法第189条第2項には「司法警察職員は、犯罪があると思料する時は、犯人及び証拠を捜査する」とあるアレが根拠になっている。検察庁もまれに主体的に犯罪捜査をすることがある。では、警察捜査と検察捜査の違いは何か。正解は、警察捜査はその活動全般に対して言えることだが、治安秩序の維持を目的としている。それに対し、検察は法秩序の維持を基本原理と捉えている。通常、警察が送致する事件は、身柄事件の場合、勾留期間内に所要の捜査を遂げ、担当検事の評価を受けて処分が決定される。起訴が決まれば、基本的に警察の手を離れる。

・逆に警察から送致を受けた側の検事はどこを見ているかというと、起訴・不起訴の決定はもちろん、その理由、起訴した場合は処分をどうするかも決めている。起訴する事件では何年の懲役を求刑し、その理由はこれで、証拠分けや冒頭陳述まで作成する。また、不起訴とする事件についてもその理由を裁定書にして決裁を受け、部長検事からの質疑を受ける。悪田も当時、経験豊富な部長検事から、柔らかな言葉の中にも、重みのある質問をいただいた記憶が残っている。

・さて、鉄は熱いうちに打てに関し、悪田の持論はこうだ。事件というものは、発生から年月が経ってしまうと時間の経過とともに記憶や関心が薄れてしまう。凶悪・残忍な事件であれ、軽微な事件であれ、当事者にとってはたいへんなショックである。しかし、時間の経過とともに犯罪と犯人との結びつきが薄くなり立件が困難となってくる。また、犯人が分かっている事件でも、当事者の利害関係が複雑に絡まった事件は、時の経過とともに余談が入りがちとなり、例えば金銭が絡む額の大きな詐欺事件であった場合でも、この先も騙された金は戻って来ないのではないかとの不安がつきまとう。被害者側にも落ち度があるのではないかとか、事件を恣意的に作ったのではないかとそしりを受けることもある。要するに日が経つと事件の筋が悪くなってしまう。だから、関係者の記憶が新しいうちに、被害者が処罰意思を強く持っているうちに、事件をとりまとめて捜査を遂げ、検察庁に送致すべきだと教えを受けた。悪田は警察官を退職した現在でもその考えを実践している。

・マンション管理の世界でも同じことが言える。お客様からのニーズはそこで生活をする人にとって多種多様である。ひとつひとつの案件をすべて対応することは困難ではあるが、フロントマンだからこそ、難題を克服し、お客様が求めるニーズに答えていくべきだ。担当者には、連日のように本人でなければ対処できないような相談がひっきりなしに寄せられる。お客様はフロントマンの多忙や休暇の予定など、一切、関係ないから、入ってくる時は容赦なしに飛んで来るし、案件に振り回されて何も進展しないまま一日が終わることも珍しくない。

・働き方改革の世の流れを受け、管理会社のフロントマンも長時間労働をするなと言われる。休暇を取ることも立派な仕事だと指導されているが、決まった就労時間内ではやり切れる筈がない。決められた時間内に仕事を遂げられないのは無能とみなされるし、何よりも顧客はサービス業者に対し付加価値がつくことを求めているから、ニーズに答えた仕事をしていくためには、休日や時間外をそこに充てるしかない。よく言われる「エース級フロントマン」と「味噌っ滓なフロントマン」との違いはそこにあると悪田は考えている。

・今日は久しぶりに休暇をいただいた。実に有難い限りで、日中からブログでつぶやいていられる。休日の午前中を利用し担当物件に赴いた。要件は前々から上司から言われていた機械式駐車場の劣化具合の確認を行うためだ。上下三段昇降式の機械式駐車場で亜鉛メッキ塗装のパレット表面と周辺の鉄部に錆が広範囲に広がっている。これは前々からの目視点検で分かっていたが、その手立てに悩んでいた。ちょっとしたある事情があって、全面塗装したいのだが、肝心の先立つモノ、アレ(金)がない。そこで、苦肉の策として、上段部のパレットあるいは、その周辺の劣化が進んだ箇所のみを部分塗装して、地下に収納されている中断・下段部分の塗装を先送りすることは出来ないか。それを見て来て欲しいという指示をもらっていた。

・一般的に長期修繕計画のガイドラインにおいて、鉄部塗装は雨掛り部分で4年、非雨掛り部分で6年と言われており、平均すると5年ということになる。このマンションでの修繕履歴を遡ると、竣工後、一度だけ鉄部の塗装工事が行われた形跡が認められるが、その後、長くやられた形跡がない。長くやれていなかった理由は、ここでは省略するが、雨掛りのパレット上段部はかなり錆が広がっていて、このまま放置した場合、穴があいて抜けてしまう心配がある。溶融亜鉛メッキは通称「ドブ漬け」と呼ばれ、亜鉛の犠牲的防食作用によって錆を防止する効果がある。

・雨掛り部分である上段部分の腐食が進行していることは確認出来ているが、非雨掛り部である中・下段の腐食がそれほど進行していないのであれば、緊急性に応じた対応に差をつけられるので、費用対効果の面でも良い内容の工事が提案出来る可能性がある。

・早速、マンションに赴くと、エントランス前で管理員が出入りの業者と揉めている。理由を尋ねると、別住のオーナーが、最近、部屋を貸し出したが、管理員に事前の連絡もなく、引越しを済ませたことを聞き、それが気に入らないとのことであった。訪問するなり、管理員が興奮して悪田に噛みついてきた。悪田は前々からオーナーからその情報を聞き、管理員にも知らせていたのだが、管理員の知らぬ間に引越しが行われたことに怒りが収まらないようだ。

・偶然たまたま、賃借人という男性が姿を現した。すると管理員は、矢継ぎばやに、いつ引越してきたのか、届出はいつするのか、私は何も聞いていない。などと噛みついている始末。良い意味では責任感を持ってマンションを管理しているのだから、本来、それを称えてやりたいところだが、客側にとってはそこに縛られ、指図される理由がどこにあるのかといった態度がありありで憮然とした表情を浮かべている。

・管理員の年齢を感じさせない一生懸命さには、今更ながら頭の下がる思いであるが、誰に何を言われようとも考えを曲げない頑固さには改めて驚かされた。悪い人ではないが、一生懸命過ぎるのだ。本人も普段から言っている。これで人生77年生きてきたのだから、今更、その頑固スタイルは変えられないし、本人にとって、元気の源なのだろう。

・悪田権三も年をとるとああなるのだろうか。いや、既になっているのかも知れない笑

・あるいは77年間頑固一徹を貫いてきた管理員も、実は鉄は熱いうちに打てを実践しているのかも知れない。まだまだ人生のひよっこである50代の悪田は、これ以上余計なことを言うのをやめようと諦めた。

 

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